国際競争力のペテンと雇用破壊(後編)
・国際競争力のペテンと雇用破壊(前編)
5. 法人税が海外移転の主な理由ではない
ことあるごとに「日本の法人税が高いから企業が活動しにくい」という発言がある。以前当ブログで取り上げた下記のものがその典型例だろう。
・NHKスペシャル「シリーズ日本新生 決断間近! どうする?消費増税」
中空麻奈氏(BNPパリバ証券投資調査本部長)
ユーロ危機の中で、ギリシャ・アイルランド・ポルトガル・スペイン・イタリアなどあるのですが、唯一アイルランドだけは回復過程に入ってます。なぜかというと法人税を12.5%と低いところで抑えたからなんです。
これは企業が国際競争力を持つことが出来たから、税収が上がったからです。
「国際競争力のペテン」については前回 4.で説明したが、過去のエントリでも別な角度から取り上げているのでぜひもう一度目を通してほしい。
実際に日本の企業が海外投資を行う主な理由を調査した資料がある。
経済産業省の
・第42回海外事業活動基本調査結果概要
-平成23(2011)年度実績-
によれば、
・Ⅱ.今回調査のポイント
12.投資決定のポイントについて
・2011年度の投資を決定した際のポイントをみると、「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる。」と回答した企業の割合が7割強と最も高い。これに続き、「納入先を含む、他の日系企業の進出実績がある。」、「進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる。」、「良質で安価な労働力が確保できる。」となっている(23図)。
・この上位4位の要因を時系列でみると、「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる。」、「進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる。」にみられるように今後の需要拡大等が見込まれることを投資の決定ポイントとする割合は、高くなってきているが、「良質で安価な労働力が確保できること」を投資の決定ポイントとする割合は、低くなってきている。
図23 投資決定のポイント
つまり、日本より「現地(もちろん中国やインドも含まれると思うが)の製品需要が旺盛(73.3%)」が7割である。「良質で安価な労働力が確保できる(23.5%)」が2割で、「税制融資等の優遇処置がある」がおそらく法人税に相当するものだと思うが1割弱である。このことから見ても、上記の中空麻奈氏の発言に説得力はない。
気になるのは「良質で安価な労働力が確保できる(23.5%)」とあるが、つまりグローバル企業からすれば、日本だろうが、中国だろうが、インドだろうがとにかく安い労働者を使うことができればそれに越したことはない。だから、日本では少しでも労働者を安く使うためにこれだけ非正規雇用が増えたのであって、このような企業の(不純な?)動機の結果によるものである。ただし、この項目については年々ポイントを下げており、2004年は46.7%であったが、2011年では23.5%である。それだけ日本と他国の労働者賃金の足の引っ張り合いは限界に達してきたと企業も気がついたのだろうか。
もうひとつ企業が海外で現地法人税を気にしなくてもよい理由があり、それは「外国税額控除」という聞きなれない優遇税制である。
・法人実効税率のごまかしと法人所得課税
政府税調答申、経団連提言を斬る
②外国税額控除
外国で払った税金を日本の決算申告時に控除できるという制度、自分が支払っていない税金も控除できてしまう間接外国税額控除やみなし外国税額控除も含まれており、大変不公平な大企業優遇税制です。三菱商事は07年3月期に399億26百万円の減税になっています。
このような優遇税制があるため、現地での法人税率など企業にとってはあまり気にしなくてよいのかもしれない。
6. 増え続ける内部留保
このように現場の労働者は安い賃金で仕事に追われているのだが、資本金10億円以上の大企業は巨大な内部留保を溜め込んでいることがわかっている。
・日本の大企業は、この10年で100兆円ため込んでいる
先月、国税庁が発表した「民間給与実態統計調査」によると、平成24年分の一人当たりの平均給与額は、正規雇用者が468万円(3,012万人)、非正規雇用者が168万円(988万人)。合算すると給与所得者の平均給与額は408万円となり、平成23年分より1万円減少した。
アベノミクス以前のデータなので、給与が前年より下がっても仕方がないと思いがちだが、反対に日本の大企業の「内部留保」は、年々増え続けているのだ。
駒澤大学経済学部教授の小栗崇資氏が解説する。まず、内部留保とは何か。
「企業は製品やサービスの売り上げから原材料費や賃金などの経費を差し引き、利益を計上します。内部留保とは、その利益から税金と株主への配当金を払って残った利益剰余金などを総計した、要は企業の儲けの蓄積のことです」
利益剰余金のほか、将来の支出や損失に備えるため、主に貸借対照表の負債の部に繰り入れられる「引当金」、新株発行などの資本取引によって増資し、発生した「資本剰余金」、これらを累計した数字が一般的に「内部留保」とされる(出典:財務省「法人企業統計年表」、国税庁「民間給与実態統計調査」)。
「利益剰余金だけを見ると、2011年度は141.3兆円でした(資本金10億円以上、大企業5806社)。10年前(2001年/84.7兆円)の約1.7倍。高度成長期だった30年前(1981年/19.8兆円)までさかのぼると約7倍です」
(中略)
そもそも、膨大な内部留保はどのようにして積み上がったのか?
「ひとつは人件費の削減です。2001年から2011年にかけ、従業員給付は52兆円から51.4兆円に、従業員ひとり当たりの賃金は454万円から409万円に減少しました。私の試算では、仮に2001年の従業員給付が維持されていた場合に必要となっていたはずの資金は10年間で21.1兆円。つまり、同じ10年間の利益剰余金の増加分は56.6兆円ですから、実にその約4割が人件費抑制分から留保されたとみることもできます」
また、もうひとつ内部留保を膨れさせた“財源“がある。
「それは法人税の減税です。消費税が5%になった2年後(1999年)に40%から30%に減税され、企業の税負担は9.6兆円も減りました。大手企業はこの減税分の大半を内部留保に転化させたのです。今回も消費税とセットで法人税減税が検討されていますが、減税されても同じことの繰り返し。内部留保が膨れ上がるだけでしょう」
(中略)
図:労働者の平均年収と内部留保
つまり消費税増税は法人税減税のためだから、おかしなことになる。
日本国民は「国際競争力」などというもっともらしい言葉に煽られて、過去に何度も同じ手にひっかかるのは、哀れとしか言いようがない。
以前、タックス・ヘイブンについて書いたが、そこに寄せられたコメントによるとイギリス領ケイマン諸島への日本の投資残高が2012年末、55兆円もあることがわかったそうだ。
・日本の投資残高55兆円/租税回避地(タックスヘイブン)ケイマン諸島・・・今日の赤旗
このようにどこかでお金の流れが止まってしまえば、消費が落ちるし税収も上がらないのは当然だろう。
ポール・クルーグマン「さっさと不況を終わらせろ」より
きっと経済学者の竹中平蔵もこれが理解できていないか、理解したくない人の一人だ。あなたの支出はぼくの収入であり、ぼくの支出はあなたの収入になる、という事実だ。
そんなの当たり前では?でも多くの影響力のある人々は、これが理解できない。
7. まとめ
自分の工場の生産ラインで不良品の山を前に「これが全部良品だったら俺たちの給料は倍になるよね」などとラインの作業者と話したものだ。給料倍は大げさだが相当な額の不良を出してしまうことは、どこの工場でもあることだろう。その製品の種類にもよるだろうが、たとえば、部材が変わったり製造プロセスが変わったり、ちょっとしたことで製品の品質が決まってしまう。本来であれば、何が原因で不良になったのか、きちんと突き止める必要があるが、何せ不良解析する人手が少なくて手探りで製品を出荷しているような状態だ。
それというのも人件費を圧縮したせいで、人が辞めたらやめっぱなしだし、以前書いた契約社員5年雇止めの問題で、早々にラインのベテランの女性作業者が退職していってしまった。こんなことでは製品品質を維持するのは相当に苦しいし歩留まりも良くならない。
人手が足らない=>不良が出る=>人手が足らなくて解析できない=>不良が改善しない。損失が増える=>(悪循環)
この悪循環から抜け出さなくては、日本工場がつぶれるのは時間の問題だと思う。うちの工場は設備投資も予算がないということでろくにしない。日本の工場はこのままでは新製品の開発もろくにできなくなり、歩留まりの改善もこのままうまくいかなくなればグローバルでの役目を終える。
日本企業は人件費を削るのではなく、必要な人材を投入して長期的な成長力を維持していかなければ、日本の製造業は近い将来取り返しがつかなくなる。安倍晋三・竹中平蔵コンビの行おうとしている「産業競争力会議」とは、労働者を食い物にして短期的な儲けだけを追い求め、株主に還元するものである。そしてこの株主とは外国人投資家の割合も多く、以下は外国人投資家が保有している株式の割合である。以前も紹介したが、
・株主も「多国籍化」より
日立製作所 38.0%
ソニー 36.3%
武田薬品 24.9%
三井不動産 47.7%
日産自動車 68.6%
さらに中国は日本株を大量に買い漁っている状態だ。
・尖閣で関係悪化後も3兆円投資 中国政府系ファンド、日本株買い継続
外国人投資家であれば、日本の将来などどうでもよく、日本人労働者をリストラして出した利益を自分達のものにしたら、あとは使い捨ててもよい程度に考えているかもしれない。
安倍晋三・竹中平蔵コンビはそのお手伝いに日々精を出しているようだ。結果として、日本の労働資源は枯渇し、日本の長期的な成長力をさらに弱めてしまうだろう。
【Takky@UC】
[編集部より]
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