河村市長の減税をもう一度考えてみましょう
そこで、名古屋市民の一人として、河村市長が主張する減税の実態について、今一度考える材料を提供したいと思います。あえて、引用を中心とした内容とします。
最近ではほとんど報道されなくなってしまいましたが、河村市長は、2年前の市長選挙時では、減税について次のようにすると盛んに宣伝していました。
1、いわゆる金持減税は絶対しない
2、役所には膿がたまっている。減税の財源は全て行財政改革でまかない、福祉などのカットは一切行わない。
ところが、河村市長が就任して実際に行ったことは、所得に関わらず一律10%の減税を行い、高額所得者ほど減税額が大きくなり、2010年度予算では保育料の値上げなどの福祉・教育分野の予算削減を提案しております。市議会での審議で、福祉・教育分野のカットは一部復活しましたが、児童養護施設の補助金などは残念ながらカットされてしまいました。
河村市長の行財政改革の中身
http://www.city.nagoya.jp/zaisei/page/0000012042.html
市議会での修正の内容
http://www.city.nagoya.jp/shikai/page/0000012983.html
2011年度では、市議会が減税条例を否決したことにより、名古屋市の福祉・教育予算が充実するといった現象が起きています(下記URLの読売新聞記事参照)。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110228-OYT1T01220.htm
「市民税減税」否決で福祉充実…名古屋市
名古屋市は28日、新年度の当初予算案を発表した。
河村たかし市長の公約「市民税10%減税」が昨年の11月議会で否決されたため、浮いた減税財源159億円のうち、47億円は市民から要望の多かった福祉施策などに充てられた。
新年度予算案の一般会計は前年度比1・5%増の1兆499億円。待機児童解消のための民間保育所の整備補助(14億2500万円)、子どもの医療費助成(85億4000万円)、特別養護老人ホームの整備計画前倒し(18億100万円)などが盛り込まれた。
このうち、減税財源から、中学生までの通院医療費無料化に5億7000万円を充当するのを始め、橋や道路など公共土木施設の応急保全、学校施設の改造、特養ホームの整備補助、民間保育所の整備補助など、28事業に計47億円を振り分けた。
(2011年3月1日00時51分 読売新聞)
減税を行っていれば、この記事に記載がある整備などは一切できなかったことになります。
次に、河村市長が率いる地域政党・減税日本のホームページで、減税などについての主張が展開されています(下記URL参照)。
http://genzeinippon.com/seisaku/seisakuqa
Q.そもそも減税政策とはどういうものですか。
A.減税政策にはいくつかの観点があります。
①経済政策として
減税により民間部門の可処分所得を増やし、それにより消費が増え、経済を活性化させるという考えです。減税政策には即効性という利点があり、米国では共和党も民主党も経済状況に応じて適宜減税政策を行っています。一方で減税を行ってもさほど消費に回らない(2008年米ブッシュ減税時は 10~20%)という論文もあり、減税政策の経済効果に対する定説は定まっていません。
②プライスキャップ(料金上限規制)による行革の推進として
収入の上限を決めることによりその範囲で行政活動を行わざるを得ないようにして経営改善を行い、無駄を削減するという考え方。減税日本の減税政策の一番の論拠です。
③小さな政府論として
小さな政府とは政府・行政の規模・権限を可能な限り小さくしようとする思想または政策です。アダム・スミス以来の伝統的な自由主義に立しており、政府の市場への介入を最小限にし、個人の自己責任を重視します。行政が税金を徴収して支出するよりも市民が直接支出する方が合理的で、役人には庶民の本当に欲しいものは分からない、という立場です。
Q.(地方税の)一律減税は金持ち優遇との批判がありますが。
A.地方税は単一税率と国が定めており、これを累進性に変えると法律違反になる恐れがあるため、現状では一律減税しか選択肢がありません。また、確かに累進課税に対して一律減税を行うと高額所得者に効果が厚くなりますが、これは元々の納税率が高かったためであり、「納税者への敬意」を掲げる減税日本としてはある程度は妥当と考えています。
Q.素人の市民が税金の使い道を考えるよりもプロの行政マンに任せる方が良いのではないですか。
A.地域生活の身近なことはそこに住んでいる市民住民の方が問題点や解決策を分かっているはずです。役人よりもレベルの高い市民はたくさんいます。役人には庶民が本当にして欲しいことは分かりません。
(「地域政党減税日本 政策Q&A」より)
最後に、千葉市の熊谷市長が、河村市長の減税を分析しています(「千葉市長:熊谷俊人の日記」=下記URL参照)。私は熊谷千葉市長の考え方にはあまり賛同できない立場ですが、この分析については、非常に優れた視点であると思いますので、紹介します。
http://kumagai-chiba.seesaa.net/article/184734986.html
河村市長の政策の第一は「減税」であり、大村さんも愛知において減税をするということを主張されています。
減税の是非はさておき、まず減税の実態について理解をした上で有権者が判断をしたのかが少し不思議に思っています。
●一律減税は高所得者にメリットがある施策
名古屋において実施された減税は市民税の一律10%減税(均等割:3,000円⇒2,700円、所得割:6%⇒5.4%)です。
皆さんもご存じのとおり、市民税は所得の高い人の方が納税額は増えます。ということは減税によって最も得をする人は所得の高い人、ということになります。「いや、私は所得は高くないけど少しでも税が安くなることは良いことだ」という人もいらっしゃるかもしれませんが、ここで考えてほしいのは納税額と市民サービスは比例の関係には無い、ということです。
●低所得への福祉サービスは高所得が納める税金で成り立っている
行政が民間と違うところは、納税額が多い人ほど高い行政サービスを受けられるかというとそうではなく、むしろ納税額が少ない低所得者ほど福祉を中心に手厚い行政サービスを受けているところにあります。つまり、高所得の人が納めている税金によって低所得の人は行政サービスを受けているということになります。
例えば千葉市の場合、所得が410万円以下の人数は26万人以上、構成割合にして60%近くにも上りますが、この方々の税額は全体の20%ちょっとです。対して所得が1,062万円以上の方は全体の4.5%に過ぎませんが、税額は全体の24%を占めています。
●減税によって損をするのは低所得者では
一律減税によって所得の高い人の納税額が減れば何が起きるかと言うと、低所得者のための行政サービスを行うための財源が無くなります。
河村市長は「減税分は行革で捻出できる」とおっしゃっていますが、さすがに減税分全てを職員の給与削減で賄うことはできません。行革をいくら頑張ってもある程度の福祉サービスのカットは避けられないでしょう。
●政策そのものは荒唐無稽というわけではない
ここで申し上げておきたいことは、私は減税によって福祉サービスがカットされることをもって減税はダメだと言っているわけではありません。
カットされた市民サービス以上に減税の恩恵を得る高所得者層は確実に存在するわけで、低福祉低負担、小さな政府路線として一つの方向性であることは間違いありません。アメリカで言えば共和党寄りの政策と言えるかもしれません。
また、「高所得者が名古屋市に住むことで税収が増える」という河村市長の主張も(おそらく減税額を越えるほどの増収は難しいと思いますが)全く間違っているとは言えません。
●低所得者はこれでいいのか
問題は、この明確に高所得者向けの政策がなぜか低所得者にも良いことのように受け取られている点です。
何度も申し上げてきたとおり、一律減税によって恩恵を被るのは高所得者であって、低所得者は自らの減税額以上に市民サービスの低下が起きるリスクがあるにも関わらず、「庶民革命」の美名のもとで高所得者向けの施策に喝采を送るという、この特異な状況をどう考えれば良いのでしょうか。
もし、庶民向けの減税ということであれば、均等割・所得割ともに10%減税するのではなく、所得割はそのままで均等割を3,000円から一気に半額以下にまで引き下げれば良いと思いますし、実際に名古屋市議会ではそのような議論が行われたようです。その時の河村市長の反論が「そこまで安くすると低所得者は徴収コストの方が高くなり、税を取る意味が無くなる」という内容でしたから、やはり河村市長の減税はどちらかというと高所得者向けの減税が目的ということだと思います。
●県単位での住民税の減税はナンセンス
ちなみに県レベルで減税することは全くナンセンスだと思います。
愛知県が10%県民税が安い程度で静岡県や岐阜県の人が越境して居住するでしょうか? 名古屋市のように「隣に住むくらいなら少し安いから名古屋にしよう」ということは何とかありえるとしても、県を越えるのはあまり考えられません。ましてや首都圏や関西圏から移住することなどまずありえません。少なくとも700万人以上の既存の県民に対する減税額を上回る流入効果を得ることはまず不可能です。
意味の無い減税をする財源があるのであればその金額分を毎年企業誘致に使った方が何百倍も県民のためになるでしょう。大変残念な政策です。
●将来的には大きなツケを払うことも
さらに申し上げれば、今後少子超高齢化社会の進展により社会保障費が爆発的に増え、税収は伸び悩むことが予想されます。今でも予算繰りが厳しいのですから、10年後20年後はもっと厳しくなるでしょう。そんな中で減税すれば名古屋市の借金は確実に増大し、それが将来へのツケとなることが十分に予想されます。
子ども手当てによって借金が膨らむことをもって「子ども達の将来にツケを残して子ども手当てはおかしい」と言っている有権者が将来にツケを残す減税に賛成する現象は本当に不思議です。
●簡単に財源など生まれない
「いや、行政改革で減税分の財源は捻出できるはずだ」という主張がありますが、本当にそうでしょうか? 私も政令市の市長として行革を急ピッチで進めていますが、さすがに10%減税分ほど財源を捻出することは不可能です。
そもそも「民主党は予算組み替えで財源が捻出できると言っていたのにウソじゃないか」と批判している有権者が河村市長の「行革で財源は生み出せる」という主張は信じることが不思議でなりません。名古屋市の平成22年度予算を見ても基金を取り崩し、市債も大量に発行することで成り立っており、このままでは危険な方向に進むことは誰が見ても明らかです。
私は河村市長の政策を全て否定しているわけではありません。
先ほど申し上げたように減税というのは市レベルであれば政策上全くナンセンスというわけではありませんし、地域委員会を始めとした市民自治の取り組みも非常に意欲的な取り組みです(少し拙速感は否めませんが)。
ただ、中京都構想といい、減税といい、本当に中身を理解した上で有権者が判断したのか疑問を感じざるを得ない選挙だったのであえて申し上げました。それだけ河村市長のパフォーマンスが凄かったということでしょう。
最終的には民主的な選挙によって有権者が選んだ以上、その住民の選択が正しいことを信じるしかありません。
もし、深く考えずに「人柄」や「勢いがある」で投票したのだとすれば、その選択によるリスク・被害は河村さんや大村さんではなく、他の誰でもない有権者自身が負うことになるでしょう。
【THE EDGE】
[編集部より]
筆者のTHE EDGEさんはmixiコミュ「鍋党~再分配を重視する市民の会」の会員で、当ブログには初登場の名古屋市民の方です。記事の感想をコメント欄にお寄せ下さい。ブログの記事の筆者は、「再分配を重視する」という趣旨にご賛同いただける方であれば、mixiコミュの会員であるか否かは問いませんので、原稿をお待ちしております。コメント欄に非公開コメントの機能がありますので、これを利用するなどして下さい。よろしくお願いします。
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