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所得格差と税制

厚生労働省は3年毎に所得再分配調査を実施しています。
この調査は、昭和37年度以降概ね3年毎の周期で実施されているので、来年秋頃になれば平成23年版が発表されることになりますが、せめて1年遅れ程度で発表されないものかと思います。
と言っても仕方がないので、平成20年版所得再分配調査を基に考察することにします。

平成20年版の所得調査対象年である平成19年の平均所得額は445.1万円(年額)で、前回調査時(平成17年)より4.4%減少しています。23年版が発表されれば、昨今の経済状況、非正規雇用の増加、高齢化等の影響により更に所得が減少し、格差も拡大していることは容易に想像できると思います。

以下のグラフは、平成20年版の報告書から抜粋した、「所得再分配によるジニ係数の変化」というグラフで、所得格差がどのような状況になっているかを表しています。

toripy.jpg

これを見ると、年々当初所得の格差が拡大する一方であることが判ると思います。また、再分配機能により、当初所得より再分配所得の格差が相当改善されているように見えますが、65歳以上の改善度が大幅に良いため、全体ではこのような結果として表されてしまいます。実際には、若年層や母(父)子家庭の改善度が低く、相対的貧困度も上昇していますから、年齢階級別や世帯類型別に検証する必要があることは当然でしょう。

しかし、一番の問題は、改善が専ら社会保障に頼っていることです。
国として社会保障でこれだけ改善されているとするのは結構ですが、本来の税の目的から目を逸らしてしていると言わざるを得ないと思います。

税による所得分配(そしてそれによる所得格差の改善)は、まず、個人が収める直接税の多寡による再配分がここでの対象である点に気をつけておく必要があります。法人税や消費税による再配分は対象外です。
税による改善度は、昭和62年までは4~5%ありましたが、昭和62~平成元年の抜本的税制改革による累進緩和(個人所得課税最高税率70%→50%:下図参照「累進課税推移図」)、平成7年の累進緩和(50%課税2000万円以上から3000万円以上へ)、平成11年の最高税率引き下げといった「累進性の低下」、及び平成6年~8年の特別減税や平成11年以降の定率減税による「税の全般的な所得再配分機能の低下」により、有効性を低下させてきています。

累進課税推移


政府は格差拡大が問題であると認識しながらも、全く逆の政策を実施してきました。その結果が、デフレ・スパイラルやGDP低下を作り出す状況の一因になっていることは十分に考えられると思います。
社会的な公平性担保や貧困対策という面だけでなく社会の活力を維持する見地からも所得再分配は重要であり、逆進性の強い消費税増税、大企業優遇の法人税減税は中止すべきです。
アメリカでさえ「財政の崖」回避のため富裕層増税を選択した
米「財政の崖」回避、富裕層増税に異議なし
のですから、日本でも所得税の累進性強化こそが求められる健全な税制の姿であると言えるでしょう。

【toripy】


・参考過去エントリ
今必要なのは中流層の復活だ!

・参考資料
財務省によると、2007年(平成19年)現在の申告者の実際の所得税負担率は、所得が1~2億円の納税者(26.5%)がピークになっている。それ以上の高額納税者は逆に下がり、所得100億円以上では14.2%となっている
所得税負担率
申告納税者の所得税負担率(平成19年分)

[編集部より]
記事へのご意見ご感想をコメント欄にお寄せ下さい。このエントリはmixiの「鍋党コミュ」のtoripyさんの投稿です。
当Nabe Party では mixi「鍋党コミュ」ないで税政に関するさまざまな議論を活発に行っております。その成果結果(OUTPUT)を当ブログに掲載しています。ぜひあなたもmixi「鍋党コミュ」に参加して、一緒に議論に参加してみませんか?小さな政府論はおかしいと思う人は、ぜひご参加ください。そして現在の「強者への逆再分配税制」を改めていきませんか?お待ちしております。

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テーマ : 税金
ジャンル : 政治・経済

日本の教育支出を考える

皆さんがご存知の通り、去る9月11日にOECDによる「図表で見る教育」2012年日本版が発表になりました。
ニュース等で見聞きはするけれども、専門家でない限り内容まで見ることは少ないと思いますので、今回は、この資料を基に教育格差について考えてみようと思います。

OECDによる調査結果の要点のうち、重要なことは以下の2点と思われます。

1.日本において経験のある教員の給与は、他のOECD加盟国と比べて高いが、初任給は低く、また労働時間は長い。
さらに、OECD加盟国における傾向とは異なり、日本においては2000年から2010年の間に教員の実質給与は減少している。

2.日本の公財政教育支出は、対GDP比においても一般政府総支出に占める割合においても、他のOECD加盟国に比べてかなり低い。その一方、在学者一人当たりの教育支出は高い。


まず、1の内容を調べることにします。
日本において、勤続15年の最低限の教員資格を持つ初等・中等教育の教員の平均的な年間法定給与は、44,788米ドルである一方、OECD平均は、39,395米ドルとなっている。
しかし、日本の初等・中等教育の教員の初任給は、25,454米ドルとOECD平均29,741米ドルを下回っている。
さらに、日本の教員の法定勤務時間はOECD平均よりも大幅に長い。
日本の教員の合計法定勤務時間(1,876 時間)は、OECD平均(1,676時間)よりも大幅に長い。
授業時間数そのものは、初等教育707時間、前期中等教育602時間、後期中等教育500時間と、
すべての教育段階においてOECD平均(それぞれ782時間、704時間、658時間)よりも短い。
つまり教育以外の勤務時間が多いということ。
2000年以来、ほとんどの国では教員の実質的給与が上昇している一方、日本では低下している。
2000年から2010年にかけて、データの存在する国の殆どにおいて勤続15年の教員の実質的給与が上昇している一方、日本(9%もの低下が見られる)、フランス、スイスにおいてのみ、教員の実質的給与が低下している。
日本では`経験のある教員の給与がOECD平均以上である一方、学級規模は大きい。
2010年の日本の初等教育の平均学級規模は28人となっており、これはOECD平均の21人よりも大きく、
OECD加盟国中チリ(29人)に次いで2番目に大きい数字となっている。
前期中等教育についても、日本の学級規模(33人)は、OECD平均(23人)に比べて大きく、OECD加盟国のうちでは韓国(35人)に次いで2番目に大きい。

以上のことは、特に若い教員の労働条件が悪化しいることを表しており、就業先として優秀な高等教育終了者の確保が課題となり、将来の国力低下に繋がる可能性があるということでしょう。

次に、2の内容を調べます。
日本は他のOECD加盟国に比べて教育への投資が少ない。
世界的な経済危機にも関わらず、殆どのOECD加盟国においては、2008年から2009年にかけて、
教育支出(公財政支出と私費負担の合計)が増加している。
これは、日本の場合にはあてはまらず、この期間に日本の教育機関への支出は低下している。
それにもかかわらず、日本における教育支出の対GDP比は、2000年の5.0%から2009年には5.2%(37ヶ国中30位)まで上昇している。
ただし、これは依然としてOECD平均の6.2%を下回っている。
日本における公財政教育支出の対GDP比は3.6%(30ヶ国中29位)、一般政府総支出に占める割合は8.9%(32ヶ国中最下位)であり、これに対し、OECD平均はそれぞれ5.4%、13.0%となっている。
しかし在学者一人あたりの教育支出は増加しており、特に高等教育において増加が著しい。
2009年において、日本の初等教育から高等教育段階までの在学者一人当たり年間教育支出は、10,035米ドルであり、OECD平均の9,252米ドルを上回る。
これは主に、日本の高等教育段階における教育支出(在学者一人当たり年間15,957米ドル)が
OECD平均(13,728米ドル)に比べ高いことによるものである。
しかし、初等教育、中等教育、及び高等教育以外の中等教育後の教育段階(8,502米ドル)においては、OECD平均(8,617米ドル)と同等の水準となっている。
2005年から2009年の間の高等教育段階における学生1人当たりの教育支出が13%増加している一方、初等教育、中等教育、及び高等教育以外の中等教育後の教育段階においては、5%しか増加していない。
これらの傾向は、全体としてみれば、他のOECD加盟国とはほぼ逆の傾向であり、他のOECD加盟国では、高等教育段階の在学者一人当たり教育支出が9%しか増加していない一方、初等教育、中等教育、及び高等教育以外の中等教育後の教育段階においては15%増加している。

日本の教育投資は私的部門に大きく依存している。
2009年における、日本の全ての教育支出に占める私費負担の割合は、31.9%であり、チリ、韓国に次いで3番目に高い。
これは、OECD平均である16%の二倍近い数値である。
なお、この数字には、日本において相当な額にのぼると推測される、学校外の教育にかかる家計負担は含まれていないことは特筆に値する。この比較的高い私費負担の割合は、特に、就学前教育(OECD平均が18.3%であるのに対し55%)及び高等教育段階(OECD平均が30%であるのに対し64.7%)において顕著である。
さらに、これらの教育段階における教育支出全体に対して、就学前教育段階では38.3%、高等教育段階では50.7%が、家計負担から来ている。

これらのことは、世界の潮流とは逆行し、日本の教育は専ら家計負担によって支えられており、国家として教育をあまりに軽視し過ぎていることでしょう。

上記のように日本の教育というには、世界的に見ても公的援助が極めて少なく民間まるなげの世界最低の環境であるといえます。
公費による援助が無いのですから、結果として教育は個々人の経済負担となるので、富裕層ほどいい教育が受けられ、貧困層は教育を受けられない教育格差がさらに広がるのです。
しかし今の日本教育は国立大学を独立法人化して、公費負担を減らそうとしたり、私立大学への助成金を引き下げたりとさらに最低の環境に拍車をかけているのです。
せめて、良い教育だけは平等に受けられるように、公費負担の大幅な増額を求めたいと思います。

【toripy】

・参考過去エントリ
格差社会と教育格差(貧乏人にリベンジする機会を与えろ!)

[編集部より]
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