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国際競争力のペテンと雇用破壊(後編)

先週の続きです。もし読まれていないのなら、こちらを最初に読んでから以下をお読みください。

・国際競争力のペテンと雇用破壊(前編)

5. 法人税が海外移転の主な理由ではない
ことあるごとに「日本の法人税が高いから企業が活動しにくい」という発言がある。以前当ブログで取り上げた下記のものがその典型例だろう。

・NHKスペシャル「シリーズ日本新生 決断間近! どうする?消費増税」

中空麻奈氏(BNPパリバ証券投資調査本部長)
ユーロ危機の中で、ギリシャ・アイルランド・ポルトガル・スペイン・イタリアなどあるのですが、唯一アイルランドだけは回復過程に入ってます。なぜかというと法人税を12.5%と低いところで抑えたからなんです。
これは企業が国際競争力を持つことが出来たから、税収が上がったからです。


「国際競争力のペテン」については前回 4.で説明したが、過去のエントリでも別な角度から取り上げているのでぜひもう一度目を通してほしい。

実際に日本の企業が海外投資を行う主な理由を調査した資料がある。

経済産業省の
・第42回海外事業活動基本調査結果概要
-平成23(2011)年度実績-

によれば、
・Ⅱ.今回調査のポイント

12.投資決定のポイントについて
・2011年度の投資を決定した際のポイントをみると、「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる。」と回答した企業の割合が7割強と最も高い。これに続き、「納入先を含む、他の日系企業の進出実績がある。」、「進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる。」、「良質で安価な労働力が確保できる。」となっている(23図)。
・この上位4位の要因を時系列でみると、「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる。」、「進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる。」にみられるように今後の需要拡大等が見込まれることを投資の決定ポイントとする割合は、高くなってきているが、「良質で安価な労働力が確保できること」を投資の決定ポイントとする割合は、低くなってきている。

投資決定のポイント2011

   図23 投資決定のポイント


つまり、日本より「現地(もちろん中国やインドも含まれると思うが)の製品需要が旺盛(73.3%)」が7割である。「良質で安価な労働力が確保できる(23.5%)」が2割で、「税制融資等の優遇処置がある」がおそらく法人税に相当するものだと思うが1割弱である。このことから見ても、上記の中空麻奈氏の発言に説得力はない。

気になるのは「良質で安価な労働力が確保できる(23.5%)」とあるが、つまりグローバル企業からすれば、日本だろうが、中国だろうが、インドだろうがとにかく安い労働者を使うことができればそれに越したことはない。だから、日本では少しでも労働者を安く使うためにこれだけ非正規雇用が増えたのであって、このような企業の(不純な?)動機の結果によるものである。ただし、この項目については年々ポイントを下げており、2004年は46.7%であったが、2011年では23.5%である。それだけ日本と他国の労働者賃金の足の引っ張り合いは限界に達してきたと企業も気がついたのだろうか。

もうひとつ企業が海外で現地法人税を気にしなくてもよい理由があり、それは「外国税額控除」という聞きなれない優遇税制である。

・法人実効税率のごまかしと法人所得課税
政府税調答申、経団連提言を斬る

②外国税額控除
外国で払った税金を日本の決算申告時に控除できるという制度、自分が支払っていない税金も控除できてしまう間接外国税額控除やみなし外国税額控除も含まれており、大変不公平な大企業優遇税制です。三菱商事は07年3月期に399億26百万円の減税になっています。


このような優遇税制があるため、現地での法人税率など企業にとってはあまり気にしなくてよいのかもしれない。

6. 増え続ける内部留保
このように現場の労働者は安い賃金で仕事に追われているのだが、資本金10億円以上の大企業は巨大な内部留保を溜め込んでいることがわかっている。

・日本の大企業は、この10年で100兆円ため込んでいる

先月、国税庁が発表した「民間給与実態統計調査」によると、平成24年分の一人当たりの平均給与額は、正規雇用者が468万円(3,012万人)、非正規雇用者が168万円(988万人)。合算すると給与所得者の平均給与額は408万円となり、平成23年分より1万円減少した。

アベノミクス以前のデータなので、給与が前年より下がっても仕方がないと思いがちだが、反対に日本の大企業の「内部留保」は、年々増え続けているのだ。

駒澤大学経済学部教授の小栗崇資氏が解説する。まず、内部留保とは何か。

「企業は製品やサービスの売り上げから原材料費や賃金などの経費を差し引き、利益を計上します。内部留保とは、その利益から税金と株主への配当金を払って残った利益剰余金などを総計した、要は企業の儲けの蓄積のことです」

利益剰余金のほか、将来の支出や損失に備えるため、主に貸借対照表の負債の部に繰り入れられる「引当金」、新株発行などの資本取引によって増資し、発生した「資本剰余金」、これらを累計した数字が一般的に「内部留保」とされる(出典:財務省「法人企業統計年表」、国税庁「民間給与実態統計調査」)。

「利益剰余金だけを見ると、2011年度は141.3兆円でした(資本金10億円以上、大企業5806社)。10年前(2001年/84.7兆円)の約1.7倍。高度成長期だった30年前(1981年/19.8兆円)までさかのぼると約7倍です」

(中略)

そもそも、膨大な内部留保はどのようにして積み上がったのか?

「ひとつは人件費の削減です。2001年から2011年にかけ、従業員給付は52兆円から51.4兆円に、従業員ひとり当たりの賃金は454万円から409万円に減少しました。私の試算では、仮に2001年の従業員給付が維持されていた場合に必要となっていたはずの資金は10年間で21.1兆円。つまり、同じ10年間の利益剰余金の増加分は56.6兆円ですから、実にその約4割が人件費抑制分から留保されたとみることもできます」

また、もうひとつ内部留保を膨れさせた“財源“がある。

「それは法人税の減税です。消費税が5%になった2年後(1999年)に40%から30%に減税され、企業の税負担は9.6兆円も減りました。大手企業はこの減税分の大半を内部留保に転化させたのです。今回も消費税とセットで法人税減税が検討されていますが、減税されても同じことの繰り返し。内部留保が膨れ上がるだけでしょう」

(中略)
労働者の平均年収と内部留保
   図:労働者の平均年収と内部留保


つまり消費税増税は法人税減税のためだから、おかしなことになる。
日本国民は「国際競争力」などというもっともらしい言葉に煽られて、過去に何度も同じ手にひっかかるのは、哀れとしか言いようがない。

以前、タックス・ヘイブンについて書いたが、そこに寄せられたコメントによるとイギリス領ケイマン諸島への日本の投資残高が2012年末、55兆円もあることがわかったそうだ。

・日本の投資残高55兆円/租税回避地(タックスヘイブン)ケイマン諸島・・・今日の赤旗

このようにどこかでお金の流れが止まってしまえば、消費が落ちるし税収も上がらないのは当然だろう。

ポール・クルーグマン「さっさと不況を終わらせろ」より

あなたの支出はぼくの収入であり、ぼくの支出はあなたの収入になる、という事実だ。
そんなの当たり前では?でも多くの影響力のある人々は、これが理解できない。

きっと経済学者の竹中平蔵もこれが理解できていないか、理解したくない人の一人だ。

7. まとめ
自分の工場の生産ラインで不良品の山を前に「これが全部良品だったら俺たちの給料は倍になるよね」などとラインの作業者と話したものだ。給料倍は大げさだが相当な額の不良を出してしまうことは、どこの工場でもあることだろう。その製品の種類にもよるだろうが、たとえば、部材が変わったり製造プロセスが変わったり、ちょっとしたことで製品の品質が決まってしまう。本来であれば、何が原因で不良になったのか、きちんと突き止める必要があるが、何せ不良解析する人手が少なくて手探りで製品を出荷しているような状態だ。
それというのも人件費を圧縮したせいで、人が辞めたらやめっぱなしだし、以前書いた契約社員5年雇止めの問題で、早々にラインのベテランの女性作業者が退職していってしまった。こんなことでは製品品質を維持するのは相当に苦しいし歩留まりも良くならない。

人手が足らない=>不良が出る=>人手が足らなくて解析できない=>不良が改善しない。損失が増える=>(悪循環)

この悪循環から抜け出さなくては、日本工場がつぶれるのは時間の問題だと思う。うちの工場は設備投資も予算がないということでろくにしない。日本の工場はこのままでは新製品の開発もろくにできなくなり、歩留まりの改善もこのままうまくいかなくなればグローバルでの役目を終える。

日本企業は人件費を削るのではなく、必要な人材を投入して長期的な成長力を維持していかなければ、日本の製造業は近い将来取り返しがつかなくなる。安倍晋三・竹中平蔵コンビの行おうとしている「産業競争力会議」とは、労働者を食い物にして短期的な儲けだけを追い求め、株主に還元するものである。そしてこの株主とは外国人投資家の割合も多く、以下は外国人投資家が保有している株式の割合である。以前も紹介したが、

・株主も「多国籍化」より
日立製作所  38.0%
ソニー    36.3%
武田薬品   24.9%
三井不動産  47.7%
日産自動車  68.6%

さらに中国は日本株を大量に買い漁っている状態だ。

・尖閣で関係悪化後も3兆円投資 中国政府系ファンド、日本株買い継続

外国人投資家であれば、日本の将来などどうでもよく、日本人労働者をリストラして出した利益を自分達のものにしたら、あとは使い捨ててもよい程度に考えているかもしれない。
安倍晋三・竹中平蔵コンビはそのお手伝いに日々精を出しているようだ。結果として、日本の労働資源は枯渇し、日本の長期的な成長力をさらに弱めてしまうだろう。

【Takky@UC】

[編集部より]
皆様のご意見をお待ちしております。
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テーマ : 税金
ジャンル : 政治・経済

国際競争力のペテンと雇用破壊(前編)

今回は国際競争力の名の下に雇用破壊を続ける安倍内閣について、自分がグローバル企業の製造現場を10年見てきた立場から考えてみたい。

1.リストラの実態
先日半導体工場でリストラにあっているという人とお会いして、リストラについて話を聞いてきた。
それによると「今の職場にあなたの活躍する場所はない」などと上司や人事から面接で言われ、派遣会社を紹介されるという。すると派遣会社の担当者は「まだまだあなたの活躍する場所はありますよ」などと巧みに誘い、派遣先を紹介するそうだ。
派遣会社といえばパソナが有名で、その取締役会長である竹中平蔵について最近以下の記事が出ている。

・竹中平蔵が画策 「解雇特区」構想でサラリーマンは奴隷化必至


(中略)
「産業競争力会議」は、解雇特区をつくれば企業が従業員を雇いやすくなり、雇用が生まれるなどと喧伝しているが、特区にそうそうたる「ブラック企業」が集結し、いずれ日本全体がブラック企業化するのは目にみえている。

「特区構想は、対象を大都市に事務所を構えるベンチャー企業に限定するとしています。しかし、拡大されるのは確実です。派遣社員だって、最初は限定されていた。それに対象は創業5年以内の企業としているが、古い企業が別会社をつくるなど“抜け道”はいくらでも考えられる。もともと安倍首相は『世界で一番ビジネスしやすい国にする』と宣言し、経済界の要望を無批判に受け入れてきた。恐らく特区を突破口にして、社員を簡単にクビにできる国にするつもりでしょう」(筑波大名誉教授・小林弥六氏=経済学)

<どんなに企業儲けさせても景気は上向かない>

「解雇特区構想」を強力にプッシュしているのは、「産業競争力会議」のメンバーである竹中平蔵だ。

 小泉政権で実現できなかった日本改造を、安倍政権で推し進めるつもりでいる。しかし「市場原理主義」の竹中平蔵に勝手をやらせたら、日本はどこまでも格差が広がってしまう。

「強いものを強くする、企業の利益を最優先する、という市場原理主義では景気は回復しないことは、小泉政治の失敗が証明しています。GDPの6割は個人消費なのだから、どんなに企業を儲けさせても、労働者の賃金が増えなければ景気は上向かない。安倍首相は、サラリーマンの懐が温かくなるようにするべきです。なのに、消費税増税で国民から8兆円を吸い上げ、法人税を減税しているのだから話にならない。そのうえ、解雇特区を導入しようなんてどうかしています。なぜ、ブラック企業がやるようなことを政府がやるのか」(小林弥六氏)

「解雇特区」の導入など絶対に許してはいけない。こうなったら、安倍首相と竹中平蔵をまとめて叩き潰すしかないのではないか。


つまり、バンバン正社員を減らして、派遣会社が儲かり企業がまともに給料を払わないブラック社会を竹中平蔵は目指しているようだ。

2.安倍晋三の「雇用が60万人増えた」のペテン
こうした激しいリストラはいたるところで行われていると思ってよい。
電機・情報ユニオンによれば20万人近い人たちが人員削減の対象となっていると伝えている。

・リストラ情報

電機労働者懇談会(電機懇)は、2013年10月9日現在の調査を行ない、124企業・職場の社員数148万6417人のうち、公表されただけで19万1891人が人員削減の対象となっていることを明かになりました。


しかし、こうした事実があるにもかかわらず、安倍総理は60万人の雇用が増えたと言ったそうだが、その内訳は以下のようである。

・首相「雇用60万人増」というが増えたのは非正規社員
志位氏 正社員が当たり前の社会を

安倍晋三首相は雇用問題にふれ、「5月、前年同月比60万人の雇用が増えています」と胸を張りました。
 総務省「労働力調査」によると、確かに昨年5月から今年5月にかけて、雇用者は62万人増加しています。
 しかし、その内実は非正規雇用労働者の増加によるものです。
 正規労働者をみると、昨年4~6月期平均の3370万人から、今年5月には3323万人と47万人減少。一方、パート・アルバイト、派遣などの非正規雇用労働者は、同期で1775万人から1891万人へと116万人も激増しています。


つまり、雇用が増えたといっても、正社員が上記のようにリストラや企業倒産などにあい、次の正社員での仕事が見つからないために、派遣や契約社員などの非正規雇用に転換させられた労働者が多いのではないだろうか。
総務省統計局の最新の発表によれば

・労 働 力 調 査 (詳細集計)
平成25年(2013年)4~6月期平均(速報)

1 雇用形態
 ・正規の職員・従業員は3317万人と,前年同期に比べ53万人の減少。2期連続の減少。非正規の職員・従業員は1881万人と,前年同期に比べ106万人の増加
 ・役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は36.2%と,前年同期に比べ1.7ポイントの上昇。2期連続の上昇

雇用形態別に見た役員を除く雇用者の推移
  雇用形態別に見た役員を除く雇用者の推移

2 現職の雇用形態(非正規の職員・従業員)についた主な理由
 ・男性の非正規の職員・従業員(603万人)のうち現職の雇用形態についた主な理由を「正規の職員・従業員の仕事がないから」とした者が168万人で30.7%
 ・女性の非正規の職員・従業員(1278万人)のうち現職の雇用形態についた主な理由を「家計の補助・学費等を得たいから」とした者が331万人で27.5%

現職の雇用形態についた主な理由別非正規の職員・従業員の内訳
現職の雇用形態についた主な理由別非正規の職員・従業員の内訳 (2013年4~6月期平均)


となっている。先ほどの半導体工場のリストラにあっている彼の話だと、関東の工場に勤めていて退職した場合、自分の実家のある地方に戻ろうとしても正社員の仕事はなく、パソナなどの大手派遣会社の紹介で派遣になるしかないと言っていた。しかし、彼は高校生と大学生の子供がいるから、絶対に派遣にはなりたくないからと、会社のリストラに対して抵抗を続けていいる。同じようにリストラに屈せず会社に残った人たちは、40代の子育て中の人や家のローンを抱えている人たちだそうだ。それに年齢も40を過ぎればいまと同じ収入のある転職先を見つけることは難しい。これは現代の「農奴制」とも言うべきものではないだろうか。

3.一度非正規雇用になれば抜け出せない
このようにリストラや病気、家庭の事情など何らかの形で正社員から非正規雇用になる人は多いだろう。ぼくも病気が元で非正規雇用になったひとりだ。そして一度でも非正規雇用になれば、二度と正社員に戻れなれないように安倍内閣は法の整備をちゃくちゃくと進めている。

・正規雇用10年まで更新へ

政府は、雇用分野の規制緩和の一環として、非正規労働者が同じ企業で5年を超えて働いた場合、希望すれば期限のない雇用契約に切り替えることを企業に義務づけた労働契約法について、非正規で雇用できる期間を10年まで更新できるよう改正を目指す方針を固めました。
 政府は、大胆な規制緩和を行う「国家戦略特区」の創設にあたって、雇用分野も対象にすることを検討してきましたが、全国一律の規制を求める厚生労働省が難色を示していたことから、安倍総理大臣や新藤総務大臣ら関係閣僚が、16日会談し、対応を協議しました。
 その結果、企業の競争力を強化するためには、雇用分野の規制の緩和を進める必要があるとして、当初の方針を転換して、国家戦略特区ではなく、全国一律に規制緩和を進める方針を確認しました。
 そして、非正規労働者が同じ企業で5年を超えて働いた場合、希望すれば期限のない雇用契約に切り替えることを企業に義務づけた労働契約法について、非正規で雇用できる期間を10年まで更新できるよう改正を目指す方針を固めました。
 また、労使間の紛争を防ぐため、政府が過去の労働裁判の判例を分析し、解雇が認められるケースなどの目安をガイドラインとして、企業に示すとともに、企業向けの相談窓口を設ける方針を確認しました。


つまり、管理職以外はみんな非正規のブラック企業だらけになるとかそういう社会でも現政府は目指しているようだ。
最後にさらりと「解雇が認められるケースなどの目安をガイドラインとして、企業に示す」と書いてあるが、これはつまり企業に対して「こういう場合は解雇しても法律に抵触しませんよ」と解雇事例集(首切り事例集?)を政府が作ってあげるから安心してくださいというひどいものであるから注意したほうがいい。
このような影響は新卒の大学生にも出ていて、人生これからという若者が命を絶つのは耐え難いことだと思う。詳しくは以下のリンクを参照してほしい。

・就活自殺は5年前の3.3倍増、就職失敗による大学生の自殺率は日本平均の2.6倍にものぼる

以前も当ブログに書いたが、経済の再生は中流層復活がなければならない。ここでまたくどくど説明するのではなく、以前のブログを再び読んでいただければ良いと思う。

・今必要なのは中流層の復活だ!

ニューヨークタイムズの話題論文を全文翻訳ーーロバート・ライシュ「没落した中流階級の再生なしにアメリカ経済は復活しない」
少数の金持ちに依存する経済は弱い



4.国際競争がペテンな訳
そもそも、国際競争で日本が勝ち残るために規制緩和をするという話がでてきて、そのためには1.で述べたような「産業競争力会議」という名の「解雇特区」を作ろうという話になる。
グローバル企業における国際競争とはそもそもどういう意味なのだろうか?グローバル企業とはいうまでもなく多国籍企業といういくつもの国で事業を行う企業のことである。
自分の勤めている工場は全世界で7つもの工場があり、主にアメリカ、日本、中国、韓国、インド、ヨーロッパ数カ国である。この中で日本の工場の位置づけは、流れを追って説明すると、

1.新製品開発によってプロトタイプ(試作品)を技術部が作る
2.量産できるように生産ラインを作る
3. ある程度製造ノウハウがたまると中国・インド・韓国に生産ラインを移転する。


ぼくは主に中国・インドへの生産ライン移転などの仕事をやっている。
日本工場は絶えず新製品開発をしていかなくてはならない立場にある。それに2~3年かけてやっと製造ノウハウがたまって、歩留まりも改善し、いざこれから儲けが出るぞというときになって、中国やインドの技術者が来て製品を移転してしまう。
さらに言うと、日本で開発したものを中国・インドで生産すれば、当然最初は不具合がたくさん起こるしそうした面倒見も日本が行っている。インターネットが高度に発達したおかげで、自分のPCから社内LAN (VPN) を使って中国やインドの工場生産ラインのコンピュータのプログラムを手直ししたり、製品データを引っ張ってきて歩留まりを解析することも可能だ。だから、わざわざ日本人技術者が現地に行くことは、よほどのことがない限りないし、中国・インドの現地の技術者も最小限の人数にすることができる。
そして厄介なのが、中国・インドでの生産が遅れたり歩留まりが悪ければ「日本工場の対応が悪い」というグローバルの評価がついてしまう。各国の工場の人件費はドルで換算しているから、多少円安になったところで「何で日本人の給料はそんなに高いのだ!」とたたかれまくっている。おかげで日本人の技術者は一人でものすごい製品数を担当させられて、どこのグローバル企業の技術者も青息吐息という感じではないだろうか。無情にも新製品開発のサイクルが止まったら、日本工場はお払い箱である。
ついでに言うと、基幹となる特許はアメリカ本社のものをライセンスしてもらっているから、日本で作ってもライセンス料はアメリカ本社に払わなくてはならない。はっきり言ってグローバル企業の中で日本工場は踏んだりけったりという状況がわかってもらえるだろうか?

今説明したように、あたかも日本は全世界の国々と国際競争を争っているかのような政府の発言は、グローバル企業にはあてはまらない。せっかく日本で血道をあげて開発・量産化したところでそれは中国・インド・韓国に持っていかれるのだから何を競争しているのかわからない。これがぼくが「国際競争なんてペテンだ」という理由だ。もちろんこれは、ぼくのグローバル企業で仕事をする中で得た経験から話をしているから異論もあるとは思うが、少なくともこういう一例があることは確かだ。

今週は長くなったので、ここまでとさせていただきます。次週は
5. 法人税が海外移転の主な理由ではない
6. 増え続ける内部留保
7. まとめ

について、書く予定です。

【Takky@UC】

[編集部より]
皆様のご意見をお待ちしております。
当Nabe Party では mixi「鍋党コミュ」ないで税政に関するさまざまな議論を活発に行っております。その成果結果(OUTPUT)を当ブログに掲載しています。ぜひあなたもmixi「鍋党コミュ」に参加して、一緒に議論に参加してみませんか?小さな政府論はおかしいと思う人は、ぜひご参加ください。そして現在の「強者への逆再分配税制」を改めていきませんか?お待ちしております。

テーマ : 労働問題
ジャンル : 政治・経済

NHKスペシャル「シリーズ日本新生 決断間近! どうする?消費増税」

9月15日にNHKで放送された
討論
シリーズ日本新生
決断間近!
どうする?消費増税

では、来年4月に消費税率を現在の5%から8%に引き上げることに対して生放送で討論を行った。
以下は、番組中で自分が疑問に思ったことをメモした。

1.アベノミクスは好調?
番組ではアベノミクスの円安の影響により自動車の輸出が好調なことから売り上げが伸びているそうだ。ある輸送会社ではリーマンショック以降出てなかったボーナスが出るなどアベノミクスの効果を強調している。
その一方で、円安の影響で食品やガソリンの物価が上がり生活が苦しくなっている人たちも多い。
ぼく自身は医療機器メーカにいるのだが、アジア市場がまったくダメでアベノミクスの効果など「焼け石に水」という感じだ。

NHKの世論調査によると、景気回復の実感は
・感じる 14%
・感じない 44%
・どちらともいえない 38%
だそうだ。つまり8割くらいの人たちにとってアベノミクスの明確な効果は感じられないという結果だろう。これについて甘利経済再生担当大臣は

どうしてもこれは順番がありまして、日本全国一律にどんと(いっきに)アベノミクスが浸透するということは出来ません。どうしても金融業績で言えば、改善していくのは大きい企業から先ですし、輸出企業から先です。地域で言えば都市部から先で、地方はタイムラグがあります。
大事なことはタイムラグをなくすためにいろいろな対策を打っていくことです。


ここで甘利大臣は「大企業・輸出企業が潤えば日本全体が潤う」と言っている。
しかし、日本は大半の人が信じているより輸出への依存度(貿易依存度)は驚くほど低いことをご存知だろうか?

総務省のデータによると
9-3 貿易依存度 (エクセルシートの9-3というタブより)
外需依存度表
である。
つまり、韓国(49.9%)やドイツ(41.3%)より日本の輸出依存度(14.0%)はかなり低い。さらにアメリカ(9.8%)は1割も輸出依存度がない。
甘利大臣が言うような輸出企業が日本を支えているというのは、いったいどの数字を見ていっているのだろうか?
この数字を見る限り、日本もアメリカも内需依存国にしか見えない。

2.雇用者の数は増えている?
熊谷亮丸氏(大和総研チーフエコノミスト)

アベノミクスに対する典型的な批判は、円安で輸入品の値段が上がってしまう。他方で給料が上がらないので国民の生活が苦しくなる。しかし、これは先ほど甘利大臣が言われたように時間差の問題だと思います。(中略)先ほどのVTRのように上がっているのはボーナスだけではなく、雇用者の数が非常に増えている。私どもの懐に入る賃金の総額というのは、一人当たりの賃金に雇用者数をかけたものです。一人当たりの賃金は水面ぎりぎりですが、今雇用者数が急増しています。実は4~6月で見ると前年比で給料は1% くらい伸びています。
これはリーマンショック前以来の伸びですから、日本経済は着実に回復にあります。


雇用者数が増えていると言っているが、それは非正規雇用者が増えているだけである。2013年には非正規比率が男20.9%、女55.4%と男女とも過去最高を更新している
そしてこの数年間の電機メーカのリストラは18万人程度もおり、さらにアベノミクスでは「限定正社員」を導入しようとしている。正社員をこの「限定正社員」に置き換えて人件費を削減し、仕事がなくなれば解雇できる状態を作ろうとしている。
このような状態で、熊谷氏の言う「日本経済は回復している」は説得力に欠ける。

3.社会保障と税の一体改革
清家篤氏(元社会保障制度改革国民会議会長・慶応義塾長)

今回の社会保障制度改革の中には、低所得者の社会保険料の負担を軽減する改革も含まれています。そういう面では、消費税の増税に伴う逆進性の問題を緩和する部分もこの社会制度改革の中にはあります。


いま、国民健康保険は大変なことになっている。
「国保より五輪」猪瀬知事方針で 国保料2万円から16万円の暴騰

・納付通知を見てびっくり
東京都の国民健康保険料が暴騰している。今期の保険料について「納付通知」が届くころだが、東京23区では前年度2万円だった人が、16万円もの値上がりに悲鳴を上げているという。18日「赤旗」が伝えた。
・区町村への支援額を1/8に減額
暴騰の原因となったのは、都による区町村に対する独自支援の減額。320億円あったものが、今年度は43億円とほぼ1/8に激減させた。
(中略)
・東京五輪競技場の新設・増改築に1300億円
東京都にお金がないわけではない。石原・猪瀬知事が招致に異様な情熱を燃やす「2020年東京五輪」の予算は潤沢だ。
五輪開催に向け積み立ててきた開催準備基金も約4000億円にのぼる。これを国保に回せば、10年は暴騰を避けられる。
(中略)


オリンピックに数千億円使い、もう一方では支援金を280億円近く減らして、国保料を8倍にあげるという。オリンピックというのは、まず自国民が健康でなければ意味がないと思うのだが、このような税金の再分配はオリンピックの精神に反していないのだろうか。このような国がオリンピックをやるにふさわしいといえるのだろうか。
このような事実があるのに「消費税が上がれば逆進性が緩和され、社会保障が充実します」などといわれて、誰が信じるだろうか。

4.日本の法人税は高く消費税は低い?
熊谷氏

私は法人税の減税をすることがきわめて重要だと思っております。いま、世界の潮流で言えば、消費税を上げて税収を安定させて、他方で経済を活性化させるために法人税を下げるというものです。
(中略)
国際比較で見るといま(日本の)法人税は高すぎるんですね。日本はだいたい35%。他の国は20%代半ば。他方で消費税はEUの国では15%以上です。日本の国は消費税が低すぎて、法人税が高すぎる。


これは以前から当ブログで取り上げている。詳しくは以下の過去のエントリーを全文目を通してほしいが、ポイントだけ引用する。
法人税(1) 日本の法人税はそんなに高いのか?

「大企業の実際の実効税率」に示されているように、
・三菱商事 8.1%
・三井物産 9.3%
など、およそわれわれが想像していた「日本の法人税率は40%」のイメージから乖離しているようなものまである。
これにはいろいろな控除があるためだ。

試験研究費税額控除
外国税額控除
受取配当益金不算入

くわしくは、先ほどのリンク先を参照してほしい。そのうち(みなし)外国税額控除については別途本ブログで取り上げてみたい。
付け加えておくと、三菱東京UFJや三井住友、みずほなどの大銀行が、2004年以降、赤字分を次年度以降に繰り越して黒字分を相殺する優遇税制によって、法人税ゼロになっていることも問題だろう。


法人税というのはそもそも黒字企業のみが払っており、黒字申告割合が3割を下回っている(国税庁)なかでの法人税減税は、数少ない強者の大企業をますます強くしているだけではないか?法人税減税した分の企業の利益は、企業内部留保や株主配当などに消えるだけで、労働者(特に非正規労働者)の給料があがるとはだれも確信できないだろう。

番組中で清家氏は

これまでもかなり企業が成長したときに、十分に賃金に分配されてこなかった問題があることは確かです。それがデフレを深刻化させてきました。今回はぜひアベノミクスで企業の収益が高まったものをきちんと賃上げにまわすようにし、もちろん賃上げは民間の労使がやることですが、政府も少しコミットして話し合いの場にはいるとか、賃上げした企業に減税するとか。あるいは実は政府ができるいちばん手っ取り早い策は公務員の給料を上げるということです。


と、過去の企業の犯した過ちを認めているし、政府が出来るもっとも直接的な景気対策は「公務員給料を上げること」と認めている。つまり、法人税減税は直接的な景気対策とはいえない。

つぎに日本の消費税の税率についても、過去のエントリーを参照していただきたい。
消費税(2) 日本の消費税率5%は低い?

日本の消費税収構成比が32.8%(2010年度)もあるなんて、付加価値税標準税率25%もあるスウェーデンの税収構成比36.5%(2007年)と大して変わらない。
こんなにも日本の消費税収負担が大きいのに、日本はスウェーデンのように大学にただでいくことすら出来ない。何かおかしいと思わないだろうか?同じ税負担ならおなじ政府サービスを求めてもよいのではないか?


5.大企業にやさしく、庶民に厳しい
番組に寄せられた意見の中にも「大企業優遇で、消費税を負担する庶民の家計への配慮がない」というメッセージがたくさん寄せられた。
それもそのはず、今までの消費税増税分は下のグラフのように、法人税減税の穴埋めに使われてきた事実があるからだ。
消費税は19%に増税して、その分法人税は25%に減税して頂戴という身勝手経団連のトンデモ提言
消費税と法人税
番組では出てこなかったが、消費税還付金というものがある。
消費税というのは日本国内の消費に関して課税するから、海外に輸出する場合は免除される。詳しくは下記のエントリーを参照してほしい。
消費税還付とは? その1
消費税還付とは? その2
つまり、輸出企業は消費税率が上がれば上がるほどこの消費税還付金が受け取れるが、下請け企業は消費税分うまく価格転換できなければ泣き寝入りとなることもある。それが証拠に2009年度の国税滞納額、7.478億円のうち消費税の滞納は、3,742億円で50%を占めている。
このようなことがなくなるようにインボイス制度を導入しなくてはならないが、番組では一切インボイスの話は出てこなかった。本気で消費税について議論する番組なのかどうか怪しい。
また、消費税還付金を悪用した犯罪も後を絶たない。
財界が消費税増税押しをした理由 消費税の輸出還付制度=戻し税を使った犯罪発覚

中古カメラ部品などの輸出入会社「ハナヤカ」(東京・板橋)などのグループ約10社が東京国税局の税務調査を受け、消費税の還付制度=「戻し税」を悪用して約4億円を不正に還付させたと指摘されたことが2012年10月30日、分かりました。同局は重加算税を含め約5億円を追徴課税したということです。


6.国際競争力が上がれば税収が伸びる?
中空麻奈氏(BNPパリバ証券投資調査本部長)

ユーロ危機の中で、ギリシャ・アイルランド・ポルトガル・スペイン・イタリアなどあるのですが、唯一アイルランドだけは回復過程に入ってます。なぜかというと法人税を12.5%と低いところで抑えたからなんです。
これは企業が国際競争力を持つことが出来たから、税収が上がったからです。


アイルランドを引き合いに、法人税減税したら全体的に税収が伸びたといっているが、1.の表にあるようにアイルランドは輸出に59.2%も依存している国である。それを輸出依存度14.0%の日本と比べることに意味はあるのだろうか?
国際競争力についても、過去のエントリーを参照していただきたい。
法人税(3) 国際競争力とは?

2008年にノーベル経済学賞を受賞した国際経済学者、ポール・クルーグマンは、国際競争力というものはペテンだということを言っている。国際競争力をつけなくてはいけないからと賃下げするのは愚の骨頂だと主張してきたのだ。アメリカは貿易依存度は1割程度で内需が9割の国なのに、そんな国で労働者の賃金を下げていったらマーケットが小さくなって経済がだめになるというのがクルーグマンの考えである。国際競争力信仰の危うさを看破した画期的な人なのだ(*1)。
*1:富裕層が日本をだめにした!「お金持ちの嘘」にだまされるな・和田秀樹


先ほど述べたように日本の輸出依存度はGDPに対してわずか14%である。つまり内需が8割の国なのだ。このような中で、非正規雇用を増やしたりブラック企業による労働者いじめ、電機産業の大リストラをした結果が今の日本の経済状況(デフレ・スパイラル)である。これは「国際競争力」という言葉がまやかしであることの証明だ。「国際競争力」とは人々に競争を煽り立てて、苦しい暮らしを我慢しろというものでしかない。
そして中空氏の言う国同士による法人税減税合戦は国民に何をもたらすだろうか。最近書いたエントリーでも、タックス・ヘイブンによってグローバル企業が多くの税金を逃れていることが問題になっている。
タックス・ヘイブン

・ジョン・クリステンセンのインタビューから
租税回避をしているのはスターバックスだけではありません。グーグルやアマゾンなどあらゆるグローバル企業が行っています。租税回避をしている企業は市民が払った税金で提供されるインフラや行政サービスをただで使っています。食い物にしていると言っても過言ではありません。グローバル企業は民主主義国家を脅かす存在になっているのです。


最近はグローバル企業だけではなく、個人でもこうした動きが加速している。kojitakenさんのところでも、下記のエントリーが非常に注目を集めた。
NHKスペシャル『"新富裕層" vs. 国家 ~富をめぐる攻防~』(8/18)のメモ

世界に1100万人いるという「リッチスタン人」のうちアメリカに次いで多いのが日本人で、190万人いるという。日本の人口の1%ならぬ1.5%。番組では日本の「新富裕層」がシンガポールへ、アメリカの「新富裕層」がプエルトリコにそれぞれ移住した実例を紹介していた。

日本では株式等の売却益に10%の税金がかかる*1が、シンガポールでは非課税。法人税も低く、日本の「新富裕層」がシンガポールに毎年移住しているとのこと。
(中略)
番組で秀逸だと思ったのは、稼ぐだけ稼いで国に富をもたらさない「新富裕層」を生み出したのがレーガン時代のアメリカの政策だったと正確に指摘していたことだ*2。番組は、確かWSJのロバート・フランク記者の口を借り手だったと思うが、「トリクルダウン理論」は成り立たなかったと断定していた。「新富裕層」を「モンスター」とも言っていた。

アメリカのオバマ大統領は富裕層増税を求めるが、富裕層の意を受けたロビイストが共和党議員に富裕層増税に賛成しないよう念を押している。日本でも所得税の最高税率が40%から45%に引き上げられることに触れていたが、株式等の配当や売却益の軽減税率が続いていることには言及しなかった*3。こういう限界があったとはいえ、税金逃れの策を弄するモンスターである「新富裕層」の問題を鮮やかに浮き彫りにした好番組ではあった。


ここまで長々書いたが、じつはまだ番組は中盤である。結局この討論番組は、上記で指摘した資料を視聴者に見せないで、消費税増税やむなしという政府の下地を作るためのものだった。もっとちゃんとした討論番組を期待していたのだが、子供だましでしかなかったのは残念だ。

【Takky@UC】

[編集部より]
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テーマ : 税金
ジャンル : 政治・経済

続:無期雇用労働者を増やすはずの「改正労働契約法」がなぜ「5年有期雇い止め促進法」になってしまうのか

2013年5月13日公開の「改正労働契約法」をあつかったエントリでは、この法律改訂が起こした問題点を指摘しました。今回は、ぼく自身の経験を通して、どのようにこの問題に対処していったらよいのか考えてみます。前回のエントリを要約すると以下の点があります。

「改訂労働契約法」のポイント
・4月から、連続5年を越えて働いた有期雇用労働者が申請すれば、会社はその人を無期雇用にしなければならない「改正労働契約法」が施行された
・本来であれば、5年を超えれば無期雇用となり雇用が安定するはずが、雇い主(企業)側が通算雇用年数を原則5年以内として、実質5年を超えない雇止めがはじまっている。


ぼく自身も大手企業(工場)で、10年もの間、六ヶ月ごとの契約更新をする契約社員であり、今回この問題にまともに直面することとなってしまいました。5月の連休前に、自分の部署で働く契約社員が部屋に集められ、人事より説明会が行われました。その内容は以下のようなものでした。

人事の説明会
1. 4月1日で労働関連の法律で一部改正があり、それにともなって契約社員の就業規則の改定も行わた。
2. 就業規則改定において、契約社員の契約上限が5年というものが明記された。
3. この5年という期間については、2013年4月1日に法律の改正が行われて、就業規則も4月1日から改定となったので、4月1日以降、最初に皆さんが更新をするときから5年間というのがその上限期間となる。


というものでした。
今まで契約書には契約更新の上限などという言うものはなかったのですが、2013年4月1日以降に契約更新した場合は、5年後の2018年までが雇用期間の上限という契約内容になります。もちろんこれは、今回の「改訂労働法」によって5年を過ぎれば無期雇用を申し込んだ者は、無期雇用にしなくてはならないことを防止する会社側の悪質な雇止め措置と言えます。

会社には労働組合はあるものの、正社員しか入れず、ぼくのような契約社員は組合に入ることは出来ません。そのため、ぼく自身は会社に知られないように、一人でも入れる産業別労働組合(ユニオン)で活動しており、すぐにユニオンにこの件について相談をしました。まず、改訂された時給契約社員就業規則にどのように書いてあるか調べてみたところ、

付則第1条 雇用契約の期間
・次条の定めにより、契約更新をすると決定した場合であっても、通算契約期間は最初の契約開始日から5年を超えないもとのとする。


という文言が新たに追記されていました。そして6月に入り新しい契約書を渡され、そこには

・契約の更新
通算契約期間は本契約開始日(2013年7月1日)から5年を超えないものとする。


という文言が追記されていました。
そこでユニオンで対策として、以下のブログを参考に対応することにしました。

“有期労働契約の「更新上限の合意」への対応策”

このブログにあるように準備行動として

先ず、有期社員は、使用者に、もしこの合意をしなければどうなるかを質問する。
この場合、使用者は、「合意しなければ、すぐ3月末で雇止めをする」と回答するでしょうから、この回答をしっかりメモや録音しておくことが重要です。


なぜこのようなことを使用者(企業側)に質問するかというと、その下に説明があります。

・就業規則の変更への対応
なお、有期社員向けの就業規則に、今まで更新の上限がないにもかかわらず、有期契約の更新の上限が新たに定められた場合には、労働条件の不利益変更(更新の上限のない労働条件から、更新上限のある労働条件への不利益変更)ですから、労働契約法10条違反です。従前からの有期社員(有期契約労働者)を法的に拘束することはできません。


これは違法またはかなりなグレーゾーンであり、そのことを使用者(企業側)が理解していなければ、当然「合意しなければ雇止めするぞ!」という回答をしてくるでしょう。それを引き出すのが狙いです。
そのあと、とりあえずは契約更新して、次の契約期間に入ってから、このブログの通りに

・今回の更新上限の合意は、労契法18条の潜脱(せんだつ)するもので、改正労契法の趣旨に反して違法無効であり、撤回を求める。


として抗議しようと作戦を練りました。
そこでぼくは、人事に以下のような内容のメールを送りました。

改訂された「時給契約社員就業規則」に基づき、新しい契約書にはこのような条項がはいっています。

・通算契約期間は本契約開始日(2013年7月1日)から5年を超えないものとする。

もし、私がこの改定された一項について同意しない場合は、どのようになるのでしょうか?
お忙しいところ恐れ入りますが、来週月曜日 17:30までに、メールでご回答をお願いいたします。


メールを送ったのは週末の金曜日であり、翌週の月曜日の17:30までに返事をするようにと期限を切っておきました。
翌週の月曜日、ぼくは人事からの返事を待ちましたが、万が一メールでの返信ではなく、人事から直接呼び出された場合に備えて、ボイスレコーダを携帯していました。17時を回っても返事がなく、今日は返事がないとあきらめかけていたところに、人事から以下の返事がきました。

人事からの返信(要約)
1. 今年の4月以降の契約書は、規定の改定に基づきその内容を追加している
2. 改定内容について同意できない場合でも、現時点においては契約期間の上限もまだ先になるため、契約書にその文言を記載せずに契約する事は可能である
3. ただし、会社としては先日説明したとおり、今後は規定に則り契約管理をすることになるため、弊社の事情を察しの上、改定内容についてご理解いただく事をお願いする


2.については、人事はあっさりと、今回の契約書の変更内容を取り下げてしまいました。これには、ぼくは拍子抜けしてしまいました。ただし、契約書は白紙撤回するが、3.の改訂された就業規則(規定)にしたがって契約管理をするというふうに言ってきていますから、会社は5年後に改訂された就業規則をたてに更新拒絶をしてくる可能性もあります。

とりあえず、

・通算契約期間は本契約開始日(2013年7月1日)から5年を超えないものとする

この条項の文言(不更新条項といいます)を記載しない契約書を新たに作ってほしいと人事にメールで返信しておきました。
翌日の夕方、人事部から新しい契約書が自分の部長宛に送られてきて、ぼくは不更新条項のない契約書を手にすることが出来ました。

今回、会社は「1.就業規則」「2.変更内容の周知および同意」「3.契約書」の3段構えで5年雇止めを行おうとしてきました。

1. 時給契約社員就業規則を改訂して、雇用契約期間を「5年を超えない」ものとする。
2. 人事が契約社員全員に説明を行い、改訂内容を周知して、改訂内容に契約社員が同意したということにする。
3. 個別の契約書に「通算契約期間は本契約開始日(2013年*月1日)から5年を超えないものとする。」という文言を新たに入れて、契約書にサインさせる。


ぼくは2.については「同意できない」とつたえて、その結果 3. の契約書の内容を元に戻すことが出来ました。しかし、1.の就業規則に関しては、元に戻させるというところにいたっていません。今後はこれをどのように元に戻させるかが課題となります。

実は自分の会社で働く同じ契約社員の友達にも何人か声をかけて、一緒に会社と闘おうと呼びかけたのですが、ほとんどの人が「会社と戦うのではなく転職したい」ということでした。
ぼくが「たとえ転職しても、また派遣や契約社員になったのでは、同じ道をぐるぐる回るだけでおなじだから、ここで一緒に頑張ろう!」と説得したのですが、もはやこのように5年で雇止めを行おうとする会社では、働く意欲すらないという感じでした。人事が5年で契約を満了すると説明したことで、多くの契約社員は、長くてあと5年しかいられない会社で一生懸命仕事などする気持ちもなく、労働者のモチベーションを下げただけです。このようなことは、工場の生産性や歩留まりに直接響いてしまうのではないかと心配です。また、契約社員の中には、近所の養護学校を卒業してきた知的障害がある人たちもいます。このような人たちが5年後に会社を追い出されて、路頭に迷うのではないかと思うと心配です。養護学校の先生たちがこの事実を知ったらどのように思うでしょうか。
企業は単に商品を消費者に提供するというだけでなく、地域の雇用という社会的責任もあることも自覚してもらわなくてはいけません。

このように労働者の労働意欲が下がった状況では、日本の社会が活力を失うのは当然です。先日の選挙前までは、アベノミクスであたかも景気が良くなったような演出をテレビなどではしていましたが、実際には2013年には非正規比率が男20.9%、女55.4%と男女とも過去最高を更新している状況で、働く人たちは暮らしや雇用が良くなったという実感はないでしょう。先日の選挙でブラック企業がキーワードになったのもこのためです。日本の社会が本来の力を取り戻すためには、単に株価の上下に一喜一憂することではなく、労働者の安定した雇用と収入によって実現されるのではないでしょうか。長期的な安定が労働者のスキルアップにもつながります。今回の「改訂労働契約法」を本当の意味で労働者の安定した雇用と収入に結びつける必要があります。

・労働組合連絡先
電機・情報ユニオン
首都圏青年ユニオン
一人からでも労働組合に入れます。

【Takky@UC】

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テーマ : 労働問題
ジャンル : 政治・経済

タックス・ヘイブン

カリブ海に浮かぶ、ケイマン諸島。ここはタックス・ヘイブンとして有名だ。ケイマン諸島には法人税や所得税というものがまったくない。このような利点を求めて、世界中から企業が集まっている。
これはNHKで2013年5月27日放送の以下の番組内容である。

“租税回避マネー”を追え ~国家vs.グローバル企業~

“租税回避” 国家と企業の攻防

グローバル企業による租税回避は世界に何をもたらすのか?タックスヘイブン研究の第一人者 ジョン・クリステンセン(経済学者)は、租税回避は税金によって支えられる国家や市民の生活を揺るがしかねないと指摘している。

ジョン・クリステンセンのインタビューから

租税回避をしているのはスターバックスだけではありません。グーグルやアマゾンなどあらゆるグローバル企業が行っています。租税回避をしている企業は市民が払った税金で提供されるインフラや行政サービスをただで使っています。食い物にしていると言っても過言ではありません。グローバル企業は民主主義国家を脅かす存在になっているのです。


青山学院大学院 教授 三木義一さんのインタビューから

アナウンサー:企業にとっては、国際的に企業活動する。そのために最大の利益を追求するということは、企業活動としては認められているという主張もありますね?

三木教授:おっしゃると通りです。基本的に企業がビジネス活動を行って、出来るだけ多くの利益を集めたいと思うのは、当然のことだと思います。ただ、私どもの社会は、法人という形で企業活動を認めたのは何のためなのか?と考えますと、それはビジネスを円滑にしてもらうためですよね。ビジネスを円滑にして大いに利益を上げていただいて、人々を雇用していただいて、税も負担し社会に貢献してもらいたい。そういう意味で私どもが法人による企業活動を認めてきたわけです。しかし、今問題にしているのはビジネスではなくて、ビジネスによって得た利益を意図的に減らすためだけを目的とした特別な行動です。このようなものを私たち社会が法人に対して認めているかというと、それはきわめて疑問です。

アナウンサー:租税回避をすることで、企業に体力を蓄えて、それを新たな投資に向けたり雇用に結び付けたりして、社会貢献をしているのだという主張がありますが、これについではどう考えていますか?

三木教授:大いに社会貢献していただきたいと思います。そのためにも、それぞれの地域からさまざまな利益を得て企業利益が上がってきているわけですから、その地域に還元してその地域を安定したものになるようにしてこそグローバル企業にとっても大切なのではないでしょうか。

アナウンサー:ただ、国境をまたいで活動している企業に対して、一国の取り組みだけで課税するのは現実的には難しいということですね。

三木教授:非常に難しいですね。今の課税制度というのは、それぞれの国が独立して行います。そうしますと全体像が見えません。こういう租税回避というのは国をまたいで行っていますから、全体像が見えません。そこである国が思い切って課税しても、裁判で争いますと国としては負けてしまうことも少なくありません。


この後番組ではロンドンにある国際タックスシェルター情報センター(JITSIC)を取材する。JITSICの目的は、国際的な租税回避の全体像を解明し課税の可能性を探ること。アメリカ、ドイツ、中国などを含めた9カ国が加盟している。
租税回避の仕組みを番組では紹介していている。それは日本にある会社からヨーロッパのある法人にコンサル料として多額の送金をしていた。しかし、その国の法人税率は高く、租税回避に使われた形跡はなかった。しかし、その法人は事業組合と呼ばれる特殊な形態をとっていた。そして、その国では事業組合は非課税だった。その後資金はタックスヘイブンにある国の複数の会社(実は日本の子会社)に流れていた。法人税率が高い国をあえて通して、資金の流れを見えにくくし、子会社に利益を移していた。
画面は再びスタジオに戻る。

アナウンサー:租税回避に対抗するには国際的にどんな体制や制度が必要でしょうか?

三木教授:いままでは一国が別々に課税していました。情報もあまり交換がありませんでした。でも、まずは情報を公開しあって、各国が協力し合うことが大事です。その上で将来的には税制の基本的なところは同じにしていくということが必要です。税の仕組みが違うからそれを(グローバル企業に)利用されるわけです。さらに言えば税率も同じにしていくことが国際的に合意してもよいのではないでしょうか。そういうことが出来ると、遠い将来には国際的に課税を協力し合って行う国際機関が出来るのではないでしょうか。これは人類の課題かもしれません。

アナウンサー:そういった国境をまたいだ企業に対しては、制度も国境をまたいだものが必要になってくるということですね。ただ、今後もグローバル化の流れは加速していくと、租税回避も増えていく。税収はどんどん減っていくことにもつながりますね。そうしますとどのようなことがおきてきますか?

三木教授:まず、いま企業を各国が誘致するために法人税の割引をしてます。どんどん税率が下がっていく。そうしますと法人税が取れなくなっていきます。その結果税金を負担するのはだれかというと、国境を利用できない庶民たちということになります。そしてこれは私たち民主主義社会の危機でもあります。私たちは民主主義という制度を受け入れて、多数決でだれが税金を負担するか決めているわけです。でも、そうやって決めたところが、それをいやな(税負担を受け入れたくない)企業が守らずに国境をまたいで逃げてしまう。そうしますと民主主義の基礎が崩れてしまいます。

アナウンサー:租税回避というと耳慣れない遠い話のように聞こえますけど、これが加速していくとやはり将来社会保障の問題とか福祉の問題に直結してきますね?

三木教授:結局これは国境を利用できる企業や人々は税金を払わないですんで、国境を利用できない人々が税金を出していかなくてはならないということになります。財源が非常に細ります。そうするといろんな社会サービスが出来なくなります。


以上が番組の内容だった。
消費者にとって、良い製品が安く買えるのは喜ばしいことだ。しかし安値の裏には税金をちゃんと払っていないというイカサマがあったら、あなたはその製品を喜んで買うだろうか?
企業はひたすら安値競争を繰り返し、そのためには労働者賃金をたたき租税回避する。このようなグローバル企業の裏の顔に対して消費者はもっと声をあげるべきだろう。

以下は、消費税増税分は、ほとんど法人税減税に消えていってしまったというグラフ。

消費税は19%に増税して、その分法人税は25%に減税して頂戴という身勝手経団連のトンデモ提言より
消費税と法人税

消費税は来年4月に8%にあがり、その先10%にあげる予定だが、それだけではすまない。もちろんヨーロッパのような福祉国家は消費税は高いが、だからと言って法人税が低いというわけではない。税金をみんなで負担しあと言う意味での消費税は意味がある。しかし、そのぶんグローバル企業は税金逃れをしていいというわけではないことは、この番組が十分説明してくれている。

以下の数字は、有価証券報告書によって作成されたもので、日本の企業の株式の多くを外国人投資家が保有していることを表している。

株主も「多国籍化」より
日立製作所  38.0%
ソニー    36.3%
武田薬品   24.9%
三井不動産  47.7%
日産自動車  68.6%

つまり、これらの日本の大企業は、いまや日本人のものではなくなっている。もちろん働いている中心は日本人だが、いくら日本人が汗水流して働いたところで、その利益は法人税という形で日本国に還元されない。法人税減税した分は外国人投資家に流れるだけに見える。さらに、こうした大企業で電機メーカは16万人ものリストラをおこなって日本人の首を容赦なく切っている。
余談だが、もちろんこうした外国人投資家の中には、中国も介入しており気になるところもある。

尖閣で関係悪化後も3兆円投資 中国政府系ファンド、日本株買い継続

このようにグローバル企業は税金も雇用も破壊しようとしている。この番組の結論でもある、グローバル企業に対する国際的な課税の取り組みはすぐにでも整備する必要がある。

【Takky@UC】

[編集部より]
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テーマ : 税金
ジャンル : 政治・経済

「金持ちには応分の負担を、そして労働者には適切な賃金を」(後編)

前回に引き続き

ポール・クルーグマンの「高所得者増税」論文を全文公開「金持ちには応分の負担を、そして労働者には適切な賃金を」

を読み解いていく。

5.経済的な正義と成長の両立は不可能ではない

しかし、ここに至る途中で、われわれは大事なことを忘れてしまった。それは、経済的な正義と経済の成長の両立は不可能ではないということだ。

1950年代のアメリカは、金持ちに応分の負担をさせ、労働者には適切な賃金と手当を手に入れる力を与えた。しかし今と当時の右翼のプロパガンダに反し国は繁栄した。そして今、われわれはまた同じ事ができるのである。


ポール・クルーグマンが言うには、昔の経営者はちゃんと応分の税金を払っていたし、労働者を大事にしていた。
現代はどうかといえば、ちょっと極端な例かもしれないが、最近こんなニュースが注目を集めた。

税金払うのはバカ…逮捕の「丸源」社長が知人に

 法人税法違反容疑で逮捕された「丸源」(東京都中央区)社長の川本源司郎容疑者(81)は、米経済誌で「億万長者」と紹介される一方、「税金は納めたくない」と公言してはばからなかった。
「税金なんか知ったこっちゃない。そんなの払うのはバカだ」。50年来の知人は、川本容疑者がいつもそう話すのを耳にしていた。


こういう経営者はどんどん捕まえていってほしい。まったく功徳のかけらもない。

ここから先は、ぼくの私見でありポール・クルーグマンがそう言っているわけではないので注意してほしい。
ぼくが思うには、大戦争による悲劇のあとの1950年代のアメリカ人は今より熱心なキリスト教信者であったかもしれない。聖書の言葉で言えば

あなた方の中でいちばん偉い人は、いちばん若いもののようになり、上に立つ人は、仕える者のようになりなさい。(ルカ22-26)


上に立つものは謙遜になりなさいと説いている。
今の企業経営者の何人がこの教えを実践しているだろうか。
今の企業経営者はウォーレン・バフェットのこの名言を見習ってみたらどうかと思う。
「幸運な1%として生まれた人間には、残りの99%の人間のことを考える義務があります」(バフェットの株主総会)

聖書からもうひとつ

この貧しいやもめは、
さい銭箱に入れている人の中で、
だれよりもたくさん入れた。(マルコ12-43)


この「やもめ」というのは、貧しい女性信者であり、他の人と同じようにさい銭箱の行列に並び、さい銭を入れた。彼女の捧げた献金(さい銭)は、金銭的にはごくわずかなものであった。しかし、彼女が貧しい生活を送りながらも神への信仰を失わない善良さがあり、そのわずかな金銭が彼女にとってどれだけ大切なものかをイエスは知って、「だれよりもたくさん入れた」と言った。人間の功徳の値打ちは、どれだけ与えたかではなく、どのような心で与えたかにあるとイエスは説いている(*4)。
先ほどの「税金払うのはバカ…」と言って逮捕された「丸源」社長とこの貧しい「やもめ」を比べてみてほしい。もちろん税金はお布施などではないが、どちらが人間として正しいかちょっと考えればわかると言うもんだ。

再びポール・クルーグマンのこの記事に戻るが、1950年代のアメリカは聖書で説くような誠実・謙遜でありまた勤勉であったのだろう。前回引用した1955年のフォーチューン誌の「重役たちの暮らしぶり」という記事にあるように、彼らは質素であった。ポール・クルーグマンの言う「経済的な正義と経済の成長の両立は不可能ではない」とは、誠実・謙遜でありまた勤勉な時代には国は繁栄したし、いまも同じことを私たちは出来るということだ。

6.日本での賃金格差
安倍内閣のアベノミクスが話題になっているが、これは物価が上がって賃金が上がることが前提だ。しかし経団連は「賃上げを実施する余地はない」(1/21 経営労働政策委員会報告)と言って、まったく賃上げに前向きではない。

麻生財務相、経団連会長に賃上げ強く要請 「労働分配率見直さないと消費伸びぬ」

麻生氏は「この10年間、物価以上に給与が下がった」と指摘。「いきなりベアしろとは言っていない。国家のために企業として一時金やボーナスなどが出てくることを期待している」と語った。

これに対し米倉氏は「企業収益が回復に向かえば賞与・一時金も出せるし、景気は本格回復すれば雇用増大や給与の増大につながると」と表明。


麻生氏と米倉氏のこのやりとりは、「鶏が先か卵が先か?」という感じでまったく話がかみ合っていない。そして麻生財務相が経団連に要求しているのは、一時金やボーナスのある正社員だけの話で、非正規雇用者(パートや派遣)の時給を上げろとか正社員にしろとか具体的に要求しているわけではない。このことひとつ考えても、アベノミクスは物価を押し上げて、非正規労働者の実質賃金を下げてしまうだろう。たまに自分の職場でアベノミクスを歓迎して安倍総理を応援しているパートさんや派遣さんを見かける。しかし、気の毒だが、アベノミクスは彼らの期待とは真逆である。そもそもこういう賃上げの話は、正規・非正規も含めて労働組合がやるべきことだと思うが、そのあたりも日本はおかしな国だ。

誤解だらけ! 日本のお金持ち最新事情
会員制高級ホテルの?パーティ潜入でわかった
富裕層大増殖のウソ・ホント
より

「経済財政白書」によると、資本金10億円以上の大企業製造業の役員報酬の平均は、約1500万円だった01年度からわずか4年で2倍の約3000万円まで跳ね上がった。従業員1人当たりの平均給与は約600万円からほとんど変わっていないにもかかわらずだ。
 富裕層の実態に詳しい甲南大学の森剛志准教授は「その後も役員報酬の上昇傾向は続き、現在は平均で5000万円を突破し、さらにその数を増やしている」と解説する。
 実際、たった1年で1億円以上の役員報酬を得ている役員だけで約360人もおり、数千万円クラスの報酬となれば、その比ではないくらい人数は膨れ上がる。


つまり、経団連の「賃上げを実施する余地はない」というのは、まったくでたらめで、高い役員報酬のおかげで、労働者に金が回らないというだけだ。
サラリーマンの平均年収の推移(下図)を見てもわかるように
平均年収推移

平成9年(1997) 467万円を頂点に、その後はどんどん下がり続け、リーマンショック後の平成21年(2009) 406万円。平成23年(2011) 409万円である。
つまり、日本の経済がここまで悪化した要因のひとつは、アメリカ同様に金持ち減税をやりすぎ、労働者に適切な賃金と手当てを与えなかったことが理由だ。どのような業種であれ、企業は社会の「公器」でなくてはならない。現代の強欲な富豪・経営者の罪は重い。

【Takky@UC】

参考文献
*4:教養として知っておきたい聖書の名言 中井俊巳

[編集部より]
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「金持ちには応分の負担を、そして労働者には適切な賃金を」(前編)

今回のお題は
ポール・クルーグマンの「高所得者増税」論文を全文公開「金持ちには応分の負担を、そして労働者には適切な賃金を」
を読み解いていこうと思う。以下の文を読む前にリンク先のポール・クルーグマンの原文を読んでほしい。

1.質素だった1955年の経営者たちの生活

しかし1950年代には、最高所得層に適用される税率区分の最低税率はなんと91%だったのだ。一方、企業利益への税率は、国民所得比で見ると、近年の2倍だった。そして1960年頃、アメリカ人の上位0.01%は、現在の2倍に当たる70%以上の実効連邦税率を支払っていたと推定される。


昔のアメリカの最高所得層に課せられる最低税金が91%だったというのは、今聞いたらびっくりるくらい高税率だと思う。企業利益への税率も近年の二倍ほどもあった。ここで昔の日本の所得税について調べてみよう。財務省の「所得税の税率構造の推移」によると、昭和49年(1974年)は最高税率75%で住民税と合わせた最高税率は93%というびっくり仰天の税率だった。

「所得税の税率構造の推移」より

住民税と合わせた最高税率
昭和49年(1974)  93%
昭和59年(1984)  88%
昭和62年(1987)  78%
昭和63年(1988)  76%
平成元年(1989)  65%
平成 7年(1995)  65%
平成11年(1999)  50%
平成19年(2007)  50%


このように最高税率はいまや50%まで引き下げられている。
続けてポール・クルーグマンはこう言っている。

当時、富裕なビジネスマンが担わなければならない重荷は、高い税金だけではなかった。彼らは、今日では想像しがたいほどの交渉力を持つ労働者にも向き合わなければならなかったのだ。
1955年、アメリカの労働者の3分の1が組合員で、巨大企業での労使交渉は双方対等であった。企業は単に株主に奉仕するのではなく、一連の『ステークホルダーズ(利害関係者)』に奉仕するもの、という考えが一般的ですらあった。

高い税金と、強権を与えられた労働者に挟まれて、当時の経営者は、前後世代の経営者の水準からみると比較的貧しかった。

1955年にフォーチュン誌は、「重役たちの暮らしぶり」という記事を掲載し、その中で昔に比べて彼らの生活がいかに質素になったかを強調してい る。広大な邸宅、大勢の使用人、巨大なヨットという1920年代の光景は姿を消し、典型的な重役はこじんまりした郊外の家に住み、手伝いはパート、持ち 船、といってもかなり小さなレジャー用ボートを走らせるだけ、という具合だ。


昔のアメリカは税金も高かったし、労働組合も強かった。経営者たちの生活水準は質素だった。
つまり、経営者と労働者は対等なテーブルについていた。
日本でも昔は労働組合がストを行ったりしていたが、今ではそんな話はぜんぜん聞かなくなった。もうひとつは2011年には非正規比率が男20.1%、女54.6%と男女とも過去最高を更新している。非正規労働者が賃金交渉をするのは本当に厳しい話だ。

2.「社会主義」というレッテル張りの愚かしさ

今日、大邸宅や大勢の使用人、ヨットは、先例を見ない規模で復活している。そして富豪たちのライフスタイルを妨害しそうに見える政策は、ことごとく『社会主義』という轟々の非難に遭遇するハメになる。


ここで「社会主義」という非難に遭遇するハメになると言っているのは、正当に富(ここでは給与報酬・労働分配率のこと)を再分配することは「社会主義」だといって非難されるというわけだ。非難しているのは、誰かといえば富豪たちであり、多くは強欲なウォール街の投資家たちなのではないかな?だけど、ぼくのような労働者からして見れば、「社会主義」的なのは投資家や経営者のほうだろう。一生懸命に働いている労働者たちを低賃金で働かせている投資家や経営者のほうが「社会主義」的ではないかと思う。だれだって、仕事をした分は正当に評価されるべきだし、社会や会社に貢献した分を給与報酬・労働分配として正当に受け取るのは当然のことだ。そうしなければ労働者のモチベーションだって保てない。つまり正当な富の再分配を「社会主義」といって非難しているのは、富豪たちの詭弁に過ぎない。日本では、安倍総理が経団連に賃金引上げ要請するのをみて「国家社会主義者」などと言われているのを見てびっくりした。
つぎに今回の大統領選の話が出てくる。

実際、今回の大統領選でのロムニー候補の選挙運動は、バラク・オバマ大統領による高所得層へのわずかな増税と、数人の銀行家たちの不正な行状への言及が、経済の勢いを削いでいるという前提に基づくものであった。もしそうなら、富豪たちにとってはるかに厳しい環境だった1950年代は、間違いなく経済的危機にあった、ということになるのではないか。


今回の大統領選挙でどういう団体が両候補を応援していたかというと、以下のように真っ二つに分かれるところがおもしろい。
米大統領選と世界の金融規制改革より

オバマ大統領の献金リスト
1.カリフォルニア大学:70万ドル
2.マイクロソフト:54万ドル
3.グーグル:53万ドル
4.ハーバード大学:43万ドル
5.アメリカ政府:40万ドル
ロムニー大統領候補の献金リスト
1.ゴールドマン・サックス:89万ドル
2.バンク・オブ・アメリカ:67万ドル
3.JPモルガン:66万ドル
4.モルガン・スタンレー:65万ドル
5.クレディ・スイス:55万ドル
Source: http://www.opensecrets.org/pres12/contriball.php


「オバマ」vs「ロムニー」というのは、「IT企業」vs「投資銀行」の代理戦争だったのではないかと思える。
なぜこんなことになったかというと、二人の政策の違いがある。
金融業界規制より

オバマ:
無軌道な金融取引の取締と消費者保護を強化したドッド・フランク法(2010年成立)の徹底施行を表明。
ロムニー:
ドッド・フランク法の撤廃を公約。破綻する金融機関解体のための新ルール制定を呼びかけ。


このドット・フランク法というのは、

2010年7月、オバマ大統領の署名により成立した米国の金融規制改革法。上院銀行委員長のクリストファー・ドッドと下院金融サービス委員長のバーニー・フランクの二名の姓を取って通称される。ドッド=フランク法は、1920年代の米国で金融的投機がもたらした世界金融不安および大恐慌の発生を根絶するため成立したグラス=スティーガル法の現代版である。


さらに、このグラス=スティーガル法というのは、ここにあるように経済を金融洪水から守るための、防波堤システムとでも言うべきものだった。
ポール・クルーグマンの著書「さっさと不況を終わらせろ」の「グラス=スティーガル法」について読んで要約すると以下のようになる。

グラス=スティーガル法は銀行が手を出せるリスクの量を制限した。
これは預金保険が成立したので特に不可欠だった。そうでないと、預金保険がすさまじい「モラルハザード」を作り出してしまう。つまり、銀行が何も問いただされずに預金者から大金を調達し ― どうせ政府が保証してくれるんだし ― それをハイリスクハイリターンの投資につぎ込み、勝てば大もうけ、ダメならば納税者が負担と決め込むことが可能になってしまう。そういうわけで、銀行は預金者の資金で博打を打たないように、各種の規制を課せられることになった。最大の点として、預金を集める銀行はすべて、融資だけしか出来ないよう規制された。
(中略)
しかし、ビル・クリントンは大恐慌時代の規制にとどめの一撃を加え、商業銀行と投資銀行を分離するグラス=スティーガル法のルールを排除した(*1)。


つまりロムニー候補支持に多くの金融機関がついたのは、この法律によって銀行は預金者の資金で博打が打てなくなるというわけだ。
オバマ候補にIT企業がついたのはどういう理由かは、ぼくにはわからないがこちらも興味深い。どなたか知っていたら理由をぜひ教えてほしい。

3.経営者が抑圧された時代にも経済成長は達成できた

しかし不思議なことに、フォーチュン誌が1955年に描いた抑圧された企業幹部たちは、不正義に異議を唱えたり、国家への貢献を惜しんだりすることはなかった。フォーチュン誌の記事を信じるなら、彼らはむしろそれまで以上に一生懸命働いた。


ここに出てくる企業幹部というのは現代の企業幹部たちとはだいぶ様相が違う。
昔は、企業幹部といっても、工場だったら開発や製造を社員と一緒にやっていたような、つまりホンダ自動車の本田宗一郎氏のような人たちだったのではないだろうか。
アメリカだったら電機業界の創成期のトーマス・エジソン(GE)やヘンリー・フォード(Ford Motor)ではないだろうか。
いまやそういった気骨のある経営者はいなくなり、創業してから二代目三代目(もちろん世襲とは限らない)が社長の座についていることもざらだろう。以前、同族経営の会社に勤めていたが、息子が社長になったころには、周囲が息子に振り回されて大変な目にあっていたと思う。北朝鮮の世襲を見てもわかるとおり、同族支配というのはろくなことがない。政治家も同じで、現代は世襲議員ばかり。実際に政策の中身で勝負して議員になったわけではない。親(大物政治家)の人気(七光り?)のおかげで議員になっただけ。世襲は議員になれないようにするべきだ。

4.「大圧縮」の時代

第二次大戦後の重税と強い組合の数十年で特記されるのは、広範に分配された目覚しい経済成長に他ならない。1947年から1973年にかけての中間層の家計所得の倍増は、まさに空前絶後の快挙である。

どちらに郷愁を感じるか。


1950年代というのはアメリカにとって、中流階層社会であった。
経済歴史家であるクローディア・ゴールディンとロバート・マーゴは、1920年代から50年代のアメリカで起こった所得格差の縮小、つまり富裕層と労働者階層の格差、そして労働者間の賃金格差が大きく縮小したことを「大圧縮」(The Great Compression)と呼んでいる。
戦後の急成長期(1947~73年)において、典型的な世帯の実質収入は、現代の価値にして22,000ドルから44,000ドルへと、ほぼ倍に跳ね上がっている。これは年率2.7%の成長率である。そしてすべての層の収入も同率で上昇したため、「大圧縮」で達成された比較的平等な収入配分はそのまま維持された(*2)。

一方日本では1956~73年度経済成長率平均9.1%である。
経済成長率推移より
経済成長率推移

1.であげた「所得税の税率構造の推移」を思い出してほしい。昭和49年(1974年)の最高税率は93%もあったのだから。つまり過去のデータから言えば、累進課税が厳しいほど経済が停滞したということはなく、反対に累進課税が厳しく、最高税率が高いほど経済が伸びていた(*3)。
このグラフにあるように

56-73年度 平均 9.1%
74-90年度 平均 4.2%
91-11年度 平均 0.9%


と、経済成長率の平均はさがり、それは「所得税の税率構造の推移」にあるように累進課税の最高税率の低下に連動して下がってきている。つまり両者には相関関係があり、累進課税が厳しいから経済がよくならないなどというのは、富豪たちの詭弁でしかない。2.でふれたポール・クルーグマンが言う「富豪たちにとってはるかに厳しい環境だった1950年代は、間違いなく経済的危機にあった、ということになるのではないか。」という問いの答えは「1950年代の累進課税の厳しい時代の方が経済がより成長した」である。なぜこんなにも減税してしまったのだろうか?それはレーガン時代に、金持ち減税をどんどん富豪たちの都合のよいように進めていったからだ。同じように日本では自民党が金持ち減税をどんどんやっていったからだ。だれでも「減税」という聞こえのいい言葉で、ついうっかりレーガンや自民党に投票してしまったのだろう。だけど「減税」のいちばんの恩恵を受けたのは、1%の富豪たちであり、99%の庶民は関係なかった。そして気がついたら、アメリカも日本も1000兆円もの借金を抱えてしまったというのが現実だ。そして金持ち減税によってたっぷり甘い汁を吸った富豪たちは、その国の借金のつけを99%の庶民に負わせようとしている。そんなこと許されるだろうか?

続きはまた来週。

【Takky@UC】

参考文献
*1:さっさと不況をおわらせろ ポール・クルーグマン
*2:格差は作られた ポール・クルーグマン
*3:富裕層が日本をダメにした! 「金持ちの嘘」にだまされるな 和田秀樹


[編集部より]
この続きは3月11日に公開予定です。
皆様のご意見をお待ちしております。
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生活保護を考える

先日労働相談会があって、その中に大阪から東京に来た人がいた。
会社からリストラ強要されていて相談に来ていた。
大阪にはガンの奥さんを残してきたそうだ。
とてもいまの所得では治療していけないと、離婚して生活保護を受けてもらうことにしたそうだ。
二重苦三重苦で本当に気の毒だと思った。

電機業界のリストラは12万人を超えるというし、いつだれが彼と同じような目にあうかわからない。

そうした中で安倍政権は生活保護基準額の大幅な引き下げを行おうとしている。

生活保護引き下げ、受給者以外にも影響 就学援助など

よりどころにするのは、この日公表された生活保護基準と低所得世帯の消費実態を比較した5年に1度の検証結果だ。

 夫婦と子ども1人の3人世帯では、生活保護で支給される生活費(生活扶助)の方が、低所得世帯の消費支出よりも月約1万3千円多い、というものだ。子ども2人の4人世帯では、差は約2万6千円に広がる。


鍋パーティで何度も取り上げているが、生活保護というのは社会のセーフティネットの最後の砦だ。それを受給者が増えているからと、どんどん削っていこうというのは、人の命を削っていくのと同じことではないだろうか?
そもそも生活保護とは、ぎりぎりの生活が出来ればそれでいいというものでない。そんなぎりぎりの生活を続けていって、どうやって生活保護から抜け出せるというのだろうか。この記事にあるように、生活保護を低所得世帯(ワーキングプア)に合わせるというのは、低いほうに合わせているわけで、こんなのを理由に生活保護基準を見直すこと自体おかしい。またワーキングプアは最低生活費以下の収入しかない人たちのことだが、彼らが生活保護を利用するというはなしも聞いたことがない。貧困問題の本質(生活保護、ワーキングプア)を見ないで、生活保護 vs ワーキングプアという貧困対決にすり替えているように見える。
厚生労働大臣は一度生活保護支給額で生活をしてみてはいかがだろうか。

高齢者はともかく、若い世代にとっての生活保護というのは、一生お世話になる制度ではなく一時的にお世話になる制度だから、病気があれば病気を治さなければ働けないし、職業訓練を受けていなければ生活保護水準以上の収入も得られない。
そもそも、生活保護の受給者が増えている原因は、今の日本が激しい競争社会となったことも原因のひとつだろう。
うつ病になったり、リストラされたり、いつ誰がどうなるかわからない。
結局、みんな生活が不安だから、お金を使おうなどとは思わないし、消費しない社会は経済が活性化しない。
安倍政権のインフレターゲット2%というのも、物価だけ上がって生活は苦しいままではなにもお金の回りはよくならない。もうひとつおかしなことは、物価だけ上げて、生活保護基準は引き下げるのでは、受給者の生活をまったく無視している。さらに消費税の増税では目も当てあられない。どうして日本人は同族に対してこんなにも冷たいのかさっぱりよくわからない。アメリカですら餓死したなどというひどい話はないと思うが、日本では北九州市での生活保護を受けられないで餓死した事件に始まり、最近では立川で姉妹が餓死するなど、およそ世界の近代国家では考えられないようなことが起きている。近代国家で国民が餓死するなんていうのは、国として恥じ入るべきことだろう。

なぜこのような事(生活保護を必要な人が受けられない)が起きるかといえば、生活保護を申請するときの窓口での「水際作戦」が、生活保護を申請の敷居(ハードル)をあげているからである。これは不正受給を防ぐことを目的としているが、ケースワーカーひとりあたりの担当する世帯数は100世帯を超えていて、とても適正な対応は無理なのが現状だ。また、不正受給そのものに多くの批判の目が集まっているが、日本の不正受給は件数ベースで2%程度、金額ベースでは0.4%程度である。ケースワーカーひとりが100世帯以上もの担当を抱えていて、この数字はむしろ低いとぼくはとらえる。
生活保護世帯の増加は200万世帯を超えていることから、いかにも財政を圧迫しているような報道がなされている。しかし、生活保護の利用率で見れば違うことがわかる。

*1:
1951年度 人口 8457万人 生活保護利用者 204.6万人 利用率 2.4%
2011年度 人口 1億2700万人 生活保護利用者 205万人 利用率 1.6%

また各国の比較で見ても、日本の利用率 (1.6%,205万人) というのは、ドイツ(9.7%,793.5万人)、イギリス (9.27%,574.5万人) と比較しても低いことがわかる。

生活保護利用率

冒頭で紹介した男性のように、生活保護やワーキングプアは自己責任の問題ではない場合も多くある。誰がいつどういうリスクを負うかわからないから、社会のセーフティネットというものがある。大切なことは、社会全体がリスクを分散させることであって、生活保護やワーキングプアから抜け出せるように、彼らを支えることである。

今回の基準引き下げでは「夫婦と子ども2人の世帯」では14.2%(*2)も生活保護基準が引き下げられることになる。
生活保護を受ける家庭に育てば、貧困からなかなか抜け出せないのでは、その家庭では何世代にもわたって生活保護を受けることになってしまう。貧困の連鎖から抜け出せる仕組みがなければ、国の税収などいつまでたっても上がらない。

【Takky@UC】

参考リンク
*1: Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?
日本弁護士連合会

*2:STOP!生活保護基準引き下げ

参考文献
生活保護 VS ワーキングプア
若者に広がる貧困
大山典宏

[編集部より]
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 「鍋党」は、再分配を重視する市民の会です。私たちは、格差の縮小と貧困の解消を目指し、国や地方公共団体による、富の再分配の強化を求めます。そのため私たちは、「官から民へ」ではなく、「私から公へ」を追求します。

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