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軽減税率は「非効率」か?

まずはこちらの記事です。
消費増税 段階的に 軽減税率は「非効率」(東京新聞 TOKYO WEB)2011年5月31日 朝刊

財務省と内閣府は三十日、社会保障と税の一体改革を検討する集中検討会議に、消費税増税に関する有識者らの報告書を提出した。経済への急激な影響を抑えるため「税率は段階的に引き上げるのが望ましい」と指摘。ドイツが3%、英国が2・5%を上げた最近の例に言及し、二〇一五年度の社会保障費の財源不足を補うため、政府の念頭にある10%への増税に向け二回程度に分け引き上げる方針をにじませた。

 報告書は六月から本格化する消費税の増税議論の参考との位置付け。ただ財政健全化に向け、税収確保を重んじる財政当局の意向を色濃く反映した内容となっている。

 報告書は、低所得者ほど所得に占める消費税の負担割合が増す逆進性について、一時的には生じるが「生涯所得で見ると小さくなる」との研究を基に「逆進性はそれほど大きくない」と指摘した。

 また低所得者の負担増に配慮し、税率を上げた際に、食料品など生活必需品の税率は低く抑える軽減税率は、事務負担が増加するなど「非効率」として、「単一税率が望ましい」と結論づけた。仮に逆進性対策を講じる場合は、「低所得層にターゲットを絞った給付などの措置が効果的」とした。

 経済に与える影響については「増税が必ずしも景気後退を招くわけではない」と強調。税率引き上げのタイミングは「景気に勢いのある段階で引き上げを始めることが望ましい」と指摘した。

 報告書は、東大大学院の吉川洋教授や井堀利宏教授らが、内閣府による試算なども参考にしてまとめた。



まず、消費税に逆進性があることは認めるとしても、それは生涯所得で計算すると小さくなるというのはいかがなものでしょう。この発言で思い出されるのは池田信夫のこちらの記事です。池田氏も

生涯所得で考えると、人々の所得は勤労所得と引退後の年金にわけられます。一般に後者のほうが低いので、現役のとき高い所得を得ていた人でも、引退後は所得が低くなり、消費性向は上がる。人々が合理的に消費すると仮定すると、死ぬまでに所得をすべて使い切るので、生涯所得に対する消費税の比率は同じです。

と報告書と同じ理論で(?)主張しているのですが、同じコメント欄で

大竹・小原メモが消費税の累進制の根拠になっているが、これがどうも限りなく怪しい。
 ライフサイクル仮説によれば生涯の消費税負担率は同じになるという概念はよく分かりますが、何故累進的であるという結論に達するのか疑問です。

といわれてしまっている始末です。そもそも人々が合理的に消費するということが仮説でしかなく、また、現在の格差社会では現役時代もその後も低所得で常に消費性向が上がっているというケースが珍しくなくなっていっている以上、前提がおかしいのではないかといわざるを得ないと思います。
なお消費税を巡る議論(調査と情報第609号)でも

所得税は基礎控除によって最低限度の生計費への課税を回避できるが、消費税はほぼ全ての商品とサービスに課税されるため、応能負担の原則に反するとの批判がある30。消費税は、所得捕捉の問題がないため、「水平的公平性」に優れているものの、大きな経済力を持つ人がより多く負担する「垂直的公平性」を満たすことは難しい。低所得者ほど生計費に占める生活必需品の割合は高く、消費性向が高くなることから、所得に対する消費税の負担率は高くなる。この「逆進性」が、消費税の最大の問題である

とし、

低所得者の実感としては、消費税の負担感が大きいことは事実であり、将来、消費税率の引き上げが選択される場合には、逆進性への対策が重要な論点となろう。対策メニューの主なものとしては、① 食料品などの生活必需品への軽減税率の適用(欧州各国で実施、巻末別表B)、② 給付付き税額控除の導入(カナダで実施)、③ 財政措置(低所得者や老人への臨時給付等)の3つ(①②の詳細は?④棒依垢襦砲?△?

といい、低所得者に対し何らかの対策が必要であることは認めています。
財務省と内閣府は、「低所得層にターゲットを絞った給付などの措置が効果的」としかいっておらず、具体的に何をしようとしているのかがわかりにくいのですが、あえて上記の中から選ぶとすれば給付付き税額控除の導入が適当であるといっていりようであり、コメンテーター氏もそれに賛同する形で国民総背番号制の導入が必要とおっしゃっています。
もちろん現金給付がわかりやすいということもあり、また、現金が支給されることで消費が刺激される可能性もあるわけですから良い考えであるとはいえると思いますが、生活保護の不正受給が厳しく指弾される我が国でこの制度がスムーズに世間の認められるところになるのでしょうか?同様の制度を導入しているアメリカでさえこの「給付付き税額控除」にかかる不正受給者が全体の3割に上るとも言われているとのことですから。

しかし同氏がおっしゃるように、

英国などの消費税軽減税率ですが、これは不適当であり将来的にはなくすべきだ

というのはどうなのでしょう。
大原研究室番外編 アバディーンからこんにちは!の17.生活実感と付加価値税はこう言います。

日本の消費税も、英国をはじめEU諸国で実施されている付加価値税(VAT:Value Added Tax)も、どちらも間接税である。間接税は、税負担者と納税者が異なる税金の種類をいう。消費税も付加価値税も、最終的な税負担者は消費者であり、納税者は企業である。現在、消費税は5%だが、計算が面倒だし(3%の時よりもいいが)、何より家計負担が重く感じられる。
  ところで英国の付加価値税は何%かご存じだろうか。17.5%である(ガスなどの燃料は5%)。消費税の3倍以上だ。さぞかし家計負担が重いのだろうなと考えがちだが、これがそれほど重くないのである。いいかえればそんなに気にならないのである。

(中略)

ゼロ税率とは、課税はするがその税率は0(ゼロ)ということだ。課税免除(免税)は付加価値税の対象外だが、ゼロ税率は付加価値税の範囲内にありながら、その財やサービスの供給は税率ゼロとなるものである。ゼロ税率の主要な理由のひとつは、生活上、必要不可欠な項目について、消費者が税金を支払わないということを保証することにある。

(中略)

ゼロ税率が適用される財やサービスの供給は、かなり生活に密着したものが多い。食品、上下水道、書籍がゼロ税率だし、一般的に子供関連はゼロ税率だ(ただし子供が食べるからといってもお菓子は原則的に標準税率)。ゼロ税率は実質的に消費者の税負担はないのだから、安く感じるわけだ。

(中略)

日常の生活において、数多くの食品の中でゼロ税率のものと標準税率のものとの区別が付くかどうかという問題がある。もちろんスーパーなどでは区別を行って処理をしているのだが(POSシステムの導入で販売時点管理が可能になっている)、最終消費者である我々にその区別ができるかといえば、それはなかなか難しい。当地の人々は、その区別がはっきりできるのかもしれないが、我々のような入国者にはわからない。というのも、食品に限らず、ほとんどの商品の販売が、いわゆる内税方式で行われているからである。
  値札はすべて税込価格である。税額がゼロの場合も標準税率の場合も同じだ。販売店によって異なるが、レシートを見ても、ほとんどのレシートは税込み、つまり値札の価格で表示され、どの商品がゼロ税率で、どれが標準税率なのか、どの程度税金を支払っているかわからない。もっとも、DIYセンターのように、扱う商品のすべてが標準税率の場合は、税額が表示されている。
  ゼロ税率の効果は文房具やパソコン関連商製品を買ったときに実感する。文房具は標準税率であるからかなり高く感じる。センスがいいなと思うバースディーカード一枚の売価が£2~3もする。パソコンのインクジェットプリンタ用替えインク(たとえばCanon BCI 11BK)が£13である。
  しかしながら、ゼロ税率のおかげで、全体的な支出額はかなり低くなっていることは間違いない。何故ならバースディーカードを毎日買うことはないが、ゼロ税率が適用される食品はほぼ毎日買うか、週に1度のまとめ買いでも多くの量を消費するからである。 

最後に、税額の計算を一つ。たとえば、あるスーパーで食品を買ったとしよう。牛肉が£1.99、ポテトチップス£0.49、ビール£0.99、合計£3.47を支払った。これらのうち牛肉はゼロ税率だが、ポテトチップスとビールは標準税率だ。つまりポテトチップスとビールの価格には17.5%の付加価値税が加算されているのである。しからばそれぞれの付加価値税はいくらか。
  内税の付加価値税は、価格に含まれる付加価値税を計算することによって求められる。つまり、価格に「7/47」を乗じればいい。「7/47」は、付加価値税分数(付加価値税比)といわれるもので、「付加価値税率/100+付加価値税率」のことである。£0.49にこの分数(比)を乗じると£0.07、£0.99では、£0.14が税金であることがわかる。したがって£3.47のうち££0.21が付加価値税ということになる。
  こうしてみると、ゼロ税率の効果とともに、ずいぶん税金を払っていることにも驚かされるのである(ただし、実際のスーパー側の計算はこんなに簡単ではない。これについては税法の専門家にお任せすることにしよう)。[6/Dec/1999]


確かに分類は細かいし、感覚的にこれがゼロ税率でこれが標準税率というのはおかしいと思えるのは事実ですし、標準課税分が価格に転嫁される以上、低所得者の負担が軽減されるとはいえないかもしれません。しかしこの税制って結局のところ物品税ですよね。物品税の範囲を広げた。ただし、毎日消費するであろうものや、国民が政治的な判断をするために必要な情報に関するものや、子育てに必要なものはゼロ税率とする。消費するのだけれども「毎日」購入しなければならないとはいえないもの(たとえば鉛筆なんかそうでしょうか)は物品税として標準税率を適用するということなのですから、手間ではあるとしても納得感は現行の日本の消費税よりも高いように私には感じられます。

思うに、元々消費税導入に際しては「薄く広く負担」という言葉が喧伝され、負担の公平性を信じたものだったのですが、さすがに10%を超えるようになると「薄く広く」とはいえないでしょう。それを無視して厚く負担させようとして、それによる逆進性をたいしたことはないと言い切るから財務省側の説明に納得感がないのだと思います。
負担の公平性を復活させるためにせめて物品税を復活させるくらいのことはできないのか。
思い切ってシャウプ税制を復活させるくらいにしなければ公平感は出てこないと思います。

【kodebuya】

[編集部より]
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