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日本の税制の不公平(1)-分離課税

斎藤貴男氏の「消費税のカラクリ」
神野直彦氏の「分かちあいの経済学」「財政のしくみがわかる本」

この三冊は、財政、税制について理解を深める上で欠かせない三種の神器と言えるでしょう。
私のように数字が苦手な人間には多少分かりづらいところもありますが(汗)、是非ともオススメの三セットです。
これからときどき、これらの本からなるほどと思うところをメモしていきたいと思っています。


税金は、担税能力のある者、即ちお金持ちほどたくさん納める応能負担が原則です。
その原則からすれば、所得税は比例税(所得のいかんにかかわらず同じ税率が課されること。法人税がそう)ではなく、累進税(所得が多いほど税率も上がること)こそが公平な税制といえます。

日本も一応、お金持ちほど累進的にたくさん税負担をする累進課税制度を実行してるかのように見えます。
「見えます」というのは、実際は言うほど累進的になっておらず、比例的になっているのが現実だからです。

何故そうなってしまうのでしょうか?
神野氏の「財政のしくみがわかる本」p.67あたりから書かれていることをまとめてみましょう。

高額所得者の所得は、給与所得より利子所得や配当所得や不動産所得などの資産所得の方が多いのですが、日本ではこうした資産所得に対しては分離課税と言って累進税率の適用を除外しているのです
例えば、配当所得には上場株式の10%、利子所得は20%という一定の税率(比例税)になっており、キャピタルゲイン(株式を売却して得た利益)に対する課税はなんと1%10%の税率です。

所得が多いほど税率の上がる累進税より税率が一定の比例税の方が高額所得者ほど有利になりますから、この分離課税方式は資産所得が多いお金持ちにとって有利な税制だと言えるでしょう。

このように、日本の所得税は全ての所得に対し累進的に税をかけないで多くの所得を分離課税で比例税にしているから、お金持ちほど実質的な税の負担率が下がるのです。
実際そのせいで中間所得者と高額所得者は同じ税率になってしまっています。

ヨーロッパでは日本と違い、金融所得に対しても累進課税にしています。
日本でも多くの所得を分離課税にせず、累進的に税を取るべきです。それが応能負担ということですし、より公平な税制です。またそれによって国も税収が増えることになります。
(以上「財政のしくみがわかる本」よりまとめ)

民主党さん。
当然ですが、このような資産所得、金融所得は貧乏人は持っていません。持っているのはお金持ちで、しかも高額所得者ほどこういう種類の所得が多いのです。しかしそれを分離課税で比例税にすれば、お金持ちほど払う税金は軽く済むことになります。これでは応能負担原則に反し、不公平ではないでしょうか。

これをそのままにしておいて逆進性の強い消費税の税率を上げれば、低所得者層ほど重税に苦しむことになり、更に不公平さが増すことになります。
その前に、まずは金持ち優遇を是正して公平な税制に近づけ、且つ税収を増やすことから始めるべきではありませんか?

(不公平な税制についてはこれからも何度か書いていきたいと思っています)
【秋原葉月】


[編集部より]
このエントリは、「Afternoon Cafe」(秋原葉月さん運営のブログ)にも掲載されています。同ブログもよろしくお願いします。なお文中で、神野直彦氏の著書を引用する形で触れられているキャピタルゲインへの課税の件ですが、同書68頁に、「実質的に取引額の1%を払えばいいということになっています」と書かれています。これは、2002年まで施行されていた「源泉分離課税」(売却額の5.25%を売却益とみなし、さらにその20%に所得税をかける方式)のことを指すと思われます。現在ではこれは廃止され、売却益(売却額ではありません。売却額から購入額を引いた金額)の10%(所得税7%、住民税3%)に課税されます。この税率は本来20%(所得税15%、住民税5%)なのですが、小泉政権時代の2003年から現菅政権時代まで三度にわたって延長措置が取られています。2012年からもとの20%に戻すはずでしたが、昨年末の見直しにより再び2年間の延長が決まりました。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
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なるほど。だとすれば、

『分離課税を廃止し、資産所得も累進課税の対象に入れる』
『所得税の最高税率は、かつての80%(今は40%)にもどす』

というのが、格差を是正しつつ、かつ税収を増やす方法の一つかもしれません。

証券優遇税制延長の折衝(ロイター電)

今回の証券優遇税制延長の件ですが、調べてみると、国民新党所属の自見庄三郎郵政・金融担当相と野田佳彦財務大臣の折衝をロイターが報じていました。
http://jp.reuters.com/article/stocksNews/idJPJAPAN-18626920101214

> <「降りて」きた財務相>

>  11年度税制改正の焦点のひとつだった証券優遇税制は、14日午後に野田佳彦財務相と自見庄三郎郵政・金融担当相が2度にわたって会談。1度目の会談では、野田財務相が妥協案として軽減税率の1年延長を打診したのに対し、自見金融担当相は3年の延長を主張。自見金融担当相は2年へ譲歩したが決着せず、いったん協議は決裂した。数時間後に行われた2度目の会談で、野田財務相が2年延長を受け入れた。

>  自見金融相は会談終了後、財務省内で記者団に対し「財務相に今の厳しい経済情勢を分かっていただけた。私の意思通り(2年に財務相が)降りてきた」と説明。「私の主張が、率直に言えば120%通った」と、連立与党の一員として存在感を強調した。

こんなのを見ると、財務省悪玉論ばかりマスコミで報じられるのを疑問に思いますね。法人税減税についても、財務省は減税を3%に抑えよ、租税特別措置を圧縮して税収が減らないようにせよという立場で折衝していましたし、証券優遇税制の延長についても1年にとどめよと抵抗していた。そりゃ税収を増やすのが財務省の立場だから当然ですよね。社会保障の歳出を圧縮する点では、財務省に反対しなければなりませんけど、企業や富裕層からの税収を増やそうとする動きについては、それを後押しするような是々非々の意見発信が求められます。

それが、いついかなる場合でも「官僚=悪」、「官僚主導から政治主導へ」のワンフレーズでは、結局信者たちの自己満足ですべてが終わってしまいます。また、この件での自見庄三郎の言動を見ると、「国民新党の積極財政政策」を手放しで称賛する人たちの主張にも賛成できないものを感じます。これらの件で守る側に立った野田佳彦も、「無税国家」を叩き込まれた松下政経塾出身の政治家だから、そりゃ簡単に押し切られてしまいます。もっとも法人税減税の件では、玄葉光一郎と野田佳彦の折り合いがつかなかったのを、菅直人が全面的に経団連側に立つ裁定をしたんでしたっけね。

麻生も鳩山も菅もどうしようもありませんね

ぽむさん、

2012年から20%に戻ると思っていた税率の復帰は、結局2015年からになるんですね。この調子だと、次は復帰どころか、非課税にしてしまうかもしれません。最初のコメントは訂正しておきます。確かに三度目の延長になりますね。年末は体調を崩していたためか、このニュースは見逃していました。マスコミもこの件は声高には言いませんしね。

> 私としては、今回の税制改正大綱で法人税引き下げと同じくらい、腹が立ったのがこの証券優遇税制の延期なのですが、なぜかあまり(というかほとんど)怒りの声が聞こえてこないことに更に怒りを感じています。

マスコミも目立たないようにしか報じませんからね。前回の延長は麻生内閣の時で、景気対策との名目でした。麻生政権の積極財政を評価する保守系の人もこの件は批判しませんでしたし、鳩山前首相が当初延長打ち切り検討の指示を出すのが遅れた時には、てめえがたくさん株を持っているからだろうと内心毒づいていましたが、小沢信者は何も反応しませんでした。菅直人も麻生や鳩山と同じというか、今となっては彼らよりもっと悪いってことですね。本当にどうしようもありません。

証券優遇税制は3度めの延長

資産所得に対する分離課税は金持ち優遇税制の象徴みたいなもの。早速取り上げてわかりやすく解説してくれた秋原さん、ありがとうございます。

実は、分離課税は、フランスやドイツも採用しています。フランスは譲渡益への課税は分離課税、ドイツは譲渡益・配当とも分離課税としています。しかし、両国ともその税率は25%強もあるんですね。

分離課税が適用された金持ち優遇税制の代表格といえば、証券優遇税制ですが、昨年末決定された平成23年度税制改正大綱でも25年末まで延長となりました。やめるといいながら結局、3度目の延長です。理由は「景気低迷に配慮」と毎度おなじみ、カビどころか毒キノコでも生えてきそうなトリクルダウン。
一方で24年1月に予定していた少額投資非課税制度「日本版ISA」の導入は26年1月に延期だそうで、どこまでもお金持ちに優しいお政府さまです。
私としては、今回の税制改正大綱で法人税引き下げと同じくらい、腹が立ったのがこの証券優遇税制の延期なのですが、なぜかあまり(というかほとんど)怒りの声が聞こえてこないことに更に怒りを感じています。

分離課税について

任天堂相談役 山内溥氏が131億円。ファーストリテイリング(ユニクロ)柳井正氏が65億円の株式配当があり、こうした人たちからは現在のところ10%の税金しかとらない。
普通の人が普通に働いた場合は、いくらがんばっても年収2000万くらいがいいところなのではないだろうか?そして年収2000万にもなれば相当な税金を取られているだろう。
にもかかわらず株で稼いだ金(不労所得)には10%の税金では、普通の労働生活をしてる人から見たらなんだか納得できないのでは?

前からよくこのグラフはkojitakenさんのブログなどで取り上げられているが

申告納税者の所得税負担率(平成19年分)
http://www.mof.go.jp/genan22/zei001e.htm#02

億を超えるような収入のある人になると、分離課税により税負担率が上がるどころか下がってきてしまう。
こんなんで憲法から導かれる「応能負担原則」を満たしているかと言われればそうじゃないだろう。

先ほどの任天堂相談役 山内溥氏は2006年に約70億円の寄付を京都大学医学部附属病院にしている。ぼくが思うにまっとうな考えをもつ超・お金持ちと言うのは自分の財産を社会のために役立ててほしいと思っているのではないだろうか?問題はそれが「税の再配分」ではなく「個人の良心」というあいまいなものにある点だとぼくは思う。

株式譲渡益の税率について

編集者からのコメントです。

記事に紹介されている、神野氏の著書にある売却益への課税が取引額の1%という記載ですが、この点が不明だったので、ちょっと調べてみました。神野氏の本には、確かに秋原さんが紹介された記述があります。

これはおそらく、2002年12月31日まで施行されていた「源泉分離課税」の話で、この制度は、取引額の5.25%を売却益とみなし、その20%、すなわち売却額の1.05%に所得税をかけるというものでした。これは、株価が暴騰した株、たとえば株価が購入時の10倍になった株を想定すると、売却益は取引額の90%になりますから、本来なら売却額の18%を納税すべきところが、1.05%しか納税しなくても良かったというとんでもない制度です。

さすがに約8年前に廃止されましたが、証券業界の反対で、本来なら01年3月に廃止のところが、約2年間延長されました。現在は申告分離課税に一本化されていて、売却益(取引額ではありません。売却額から購入額を引いた金額)の10%(所得税7%、住民税3%)を納税します。これも、本来20%だった税率を小泉政権時代に10%軽減して、さらに麻生政権時代に延長しており、ようやく2012年度から本来の20%(所得税15%、住民税5%)に戻される予定でしたが、またしても3年間延長されてしまいます。つまり、従来は総合課税化どころか分離課税の税率を下げる圧力ばかりがかかってきたわけです。自民党政権時代ばかりではなく、政権交代後に鳩山前首相が20%に戻す検討をせよという指示を出した時もなかなか腰が重く、当初は軽減税率の延長をほのめかしていたていたらくで、何やってるんだと思ったものです。しかし、現首相の菅直人は鳩山よりさらにひどく、本当に延長してしまったわけです。

神野氏の本の件に話を戻すと、この本は2007年に出版されましたが、想像するに元原稿はもっと前に書かれていて、その記述がそのまま残っているのではないかと思います。良い機会なので、岩波書店に問い合わせてみたいと思っています。
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