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法人税(1) 日本の法人税はそんなに高いのか?

昨年、経団連の要求により菅内閣は法人税5%減税を決めた。
この理由としてもっともらしく言われてきたのが「日本の法人税が高いから国際競争力がなくなり、企業が海外に移転する」というものだ。
そこで本ブログでは以下の点について、3回に分けて考えてみようとするものだ。

1. 日本の法人税はそんなに高いのか?
2. 法人税はなんのためにあるか?
3. 国際競争力とは?

それではまず日本の法人税は他国と比べてどの程度あるのだろうか?
「財務省」のところに以下の資料があるので見てみよう。
法人所得課税の実効税率の国際比較
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/084.htm

これによれば
日本:40.69%
アメリカ:40.75%
フランス:33.33%
ドイツ:29.41%
イギリス:28%
中国:25%
韓国:24.20%
である。実は日本とアメリカはさほど変わらないのにまずおどろく。
問題はアジアの中で日本の法人税率40%は高いと言うもだ。
しかし、実際に日本の企業が40%の税負担をしているかというと実はそうでもなさそうだ。
以下のサイト(zsk)に詳しく説明がある。
----
法人実効税率のごまかしと法人所得課税
政府税調答申、経団連提言を斬る
http://www.zsk.ne.jp/zeikei552/ronbun.html

(2)実際の日本の大企業の実効税率は30%
そこで日本の大企業の実際の税負担を、企業が公表している有価証券報告書から計算してみると、日本の大企業の場合、経常利益上位100社平均で30.7%であることがわかりました(垣内亮「大企業には減税ばらまき庶民には増税」前衛07年2月より。平成18年3月期データ)。


これは2006年のことだから、リーマンショック前の企業が大もうけしていた時期のものだろう。

上記リンク先から本エントリ追記欄に転載した「大企業の実際の実効税率」に示されているように、
  • 三菱商事 8.1%
  • 三井物産 9.3%
など、およそわれわれが想像していた「日本の法人税率は40%」のイメージから乖離しているようなものまである。
これにはいろいろな控除があるためだ。

  • 試験研究費税額控除
  • 外国税額控除
  • 受取配当益金不算入

くわしくは、先ほどのリンク先を参照してほしい。そのうち(みなし)外国税額控除については別途本ブログで取り上げてみたい。
付け加えておくと、三菱東京UFJや三井住友、みずほなどの大銀行が、2004年以降、赤字分を次年度以降に繰り越して黒字分を相殺する優遇税制によって、法人税ゼロになっていることも問題だろう。

先のリンク(zsk)を読み進めていくと、企業の負担と言うのは法人税だけではない。

(5)企業負担は社会保険料負担もあわせて考える
企業の税負担の国際比較を行なう場合には、一種の目的税と考えられる社会保険料の企業負担もあわせて考えるべきです(図4参照、垣内亮氏作成)。政府税調も同じ考えから委託研究を行い、結果を発表しました(図5参照)。
この結果を見ると、日本の企業の負担率は、アメリカ、イギリスよりは高いが、ドイツ、フランスよりは低いことがわかります。日本の実効税率は世界一高いから、10%引き下げろといっていた財界の要望の理不尽さがわかります。政府税調もこの結果を受けて、「わが国の企業負担は現状では国際的に見て必ずしも高い水準にはないという結果を得た」と言っています。


上記の説明にあるように、企業の負担と言うのは社会保険料負担もあわせて考えなくてはならない。
しかし、昨年メディア・テレビによく出てきたのは、財務省のホームページデータをもとにしたアジア各国の法人税比較棒グラフである。そして言うことは決まって「日本の法人税率はアジア中で一番高いですよね~~!」というものだ。何かおかしくないだろうか?

【Takky@UC】
[資料] 大企業の実際の実効税率(平成18年3月期、単位 : 100万円、%)
企業名税引前
当期利益
法人税等実効税率
上位100社の合計11,843,8913,632,94330.7
持ち株会社等を除く87社の合計 10,050,9503,129,43331.1
納税額マイナス企業も除く79社 9,790,5113,192,70632.6
(79社のうちの主な企業のデータ)
トヨタ自動車1,104,781354,10032.1
NTTドコモ525,74277,00014.6
日産自動車279,61080,130 28.7
本田技研工業 405,525 94,40923.3
キヤノン 439,754146,98133.4
新日本製鐵402,034166,60041.4
JFEホールディングス(連結) 509,261 179,79135.3
武田薬品工業402,872193,48648.0
三菱商事 201,806 16,343 8.1
新日本石油 99,423 22,000 22.1
日本たばこ産業 200,443 29,198 14.6
KDDI 152,524 51,833 34.0
デンソー 184,560 65,580 35.5
住友金属工業 187,792 73,000 38.9
東日本旅客鉄道 221,388 104,857 47.4
三井物産 112,194 10,426 9.3
オリックス 55,509 25,538 46.0
住友商事 51,645 10,500 20.3
東海旅客鉄道 192,256 91,888 47.8
アステラス製薬 147,640 50,240 34.0

  • 日経新聞ホームページの「銘柄ランキング」掲載の経常利益上位100社を対象に試算
  • 単体決算(連結納税の企業は連結決算)の「税引前当期利益」
  • 「87社」は、持ち株会社と電力・ガス会社(法定実効税率が異なる)を除いた
  • 「79社」は、過去の累積欠損などの関係で税額がマイナス(還付)の企業も除いた

(垣内亮「大企業には減税ばらまき庶民には増税」=『前衛』2007年2月号掲載=より。菅隆徳「法人実効税率のごまかしと法人所得課税政府税調答申、経団連提言を斬る」より転載)



[編集部より]
今回から3回連続で、Takky@UCさん執筆の法人税に関するエントリを掲載します。次回は2月2日(水)に掲載予定です。ご期待ください。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

■ Comment

法人税関連の税は

なるほど。
日本の法人税の実効税率はさほど高くないということはわかりました。

ただその場合、どういう風に税を改革すべきでしょうか?
個人的には各種控除を廃止するとか、内部留保に合わせて累進課税をかけるとかの方法があると思いますが、どうですか?

社会保障の「事業主負担分」という幻想

社会保障の「事業主負担分」という幻想
http://www.j-cast.com/kaisha/2010/10/26079131.html

そもそも、法人税は(所得税との)二重課税という論も根強いわけですし。

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