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「金持ちには応分の負担を、そして労働者には適切な賃金を」(後編)

前回に引き続き

ポール・クルーグマンの「高所得者増税」論文を全文公開「金持ちには応分の負担を、そして労働者には適切な賃金を」

を読み解いていく。

5.経済的な正義と成長の両立は不可能ではない

しかし、ここに至る途中で、われわれは大事なことを忘れてしまった。それは、経済的な正義と経済の成長の両立は不可能ではないということだ。

1950年代のアメリカは、金持ちに応分の負担をさせ、労働者には適切な賃金と手当を手に入れる力を与えた。しかし今と当時の右翼のプロパガンダに反し国は繁栄した。そして今、われわれはまた同じ事ができるのである。


ポール・クルーグマンが言うには、昔の経営者はちゃんと応分の税金を払っていたし、労働者を大事にしていた。
現代はどうかといえば、ちょっと極端な例かもしれないが、最近こんなニュースが注目を集めた。

税金払うのはバカ…逮捕の「丸源」社長が知人に

 法人税法違反容疑で逮捕された「丸源」(東京都中央区)社長の川本源司郎容疑者(81)は、米経済誌で「億万長者」と紹介される一方、「税金は納めたくない」と公言してはばからなかった。
「税金なんか知ったこっちゃない。そんなの払うのはバカだ」。50年来の知人は、川本容疑者がいつもそう話すのを耳にしていた。


こういう経営者はどんどん捕まえていってほしい。まったく功徳のかけらもない。

ここから先は、ぼくの私見でありポール・クルーグマンがそう言っているわけではないので注意してほしい。
ぼくが思うには、大戦争による悲劇のあとの1950年代のアメリカ人は今より熱心なキリスト教信者であったかもしれない。聖書の言葉で言えば

あなた方の中でいちばん偉い人は、いちばん若いもののようになり、上に立つ人は、仕える者のようになりなさい。(ルカ22-26)


上に立つものは謙遜になりなさいと説いている。
今の企業経営者の何人がこの教えを実践しているだろうか。
今の企業経営者はウォーレン・バフェットのこの名言を見習ってみたらどうかと思う。
「幸運な1%として生まれた人間には、残りの99%の人間のことを考える義務があります」(バフェットの株主総会)

聖書からもうひとつ

この貧しいやもめは、
さい銭箱に入れている人の中で、
だれよりもたくさん入れた。(マルコ12-43)


この「やもめ」というのは、貧しい女性信者であり、他の人と同じようにさい銭箱の行列に並び、さい銭を入れた。彼女の捧げた献金(さい銭)は、金銭的にはごくわずかなものであった。しかし、彼女が貧しい生活を送りながらも神への信仰を失わない善良さがあり、そのわずかな金銭が彼女にとってどれだけ大切なものかをイエスは知って、「だれよりもたくさん入れた」と言った。人間の功徳の値打ちは、どれだけ与えたかではなく、どのような心で与えたかにあるとイエスは説いている(*4)。
先ほどの「税金払うのはバカ…」と言って逮捕された「丸源」社長とこの貧しい「やもめ」を比べてみてほしい。もちろん税金はお布施などではないが、どちらが人間として正しいかちょっと考えればわかると言うもんだ。

再びポール・クルーグマンのこの記事に戻るが、1950年代のアメリカは聖書で説くような誠実・謙遜でありまた勤勉であったのだろう。前回引用した1955年のフォーチューン誌の「重役たちの暮らしぶり」という記事にあるように、彼らは質素であった。ポール・クルーグマンの言う「経済的な正義と経済の成長の両立は不可能ではない」とは、誠実・謙遜でありまた勤勉な時代には国は繁栄したし、いまも同じことを私たちは出来るということだ。

6.日本での賃金格差
安倍内閣のアベノミクスが話題になっているが、これは物価が上がって賃金が上がることが前提だ。しかし経団連は「賃上げを実施する余地はない」(1/21 経営労働政策委員会報告)と言って、まったく賃上げに前向きではない。

麻生財務相、経団連会長に賃上げ強く要請 「労働分配率見直さないと消費伸びぬ」

麻生氏は「この10年間、物価以上に給与が下がった」と指摘。「いきなりベアしろとは言っていない。国家のために企業として一時金やボーナスなどが出てくることを期待している」と語った。

これに対し米倉氏は「企業収益が回復に向かえば賞与・一時金も出せるし、景気は本格回復すれば雇用増大や給与の増大につながると」と表明。


麻生氏と米倉氏のこのやりとりは、「鶏が先か卵が先か?」という感じでまったく話がかみ合っていない。そして麻生財務相が経団連に要求しているのは、一時金やボーナスのある正社員だけの話で、非正規雇用者(パートや派遣)の時給を上げろとか正社員にしろとか具体的に要求しているわけではない。このことひとつ考えても、アベノミクスは物価を押し上げて、非正規労働者の実質賃金を下げてしまうだろう。たまに自分の職場でアベノミクスを歓迎して安倍総理を応援しているパートさんや派遣さんを見かける。しかし、気の毒だが、アベノミクスは彼らの期待とは真逆である。そもそもこういう賃上げの話は、正規・非正規も含めて労働組合がやるべきことだと思うが、そのあたりも日本はおかしな国だ。

誤解だらけ! 日本のお金持ち最新事情
会員制高級ホテルの?パーティ潜入でわかった
富裕層大増殖のウソ・ホント
より

「経済財政白書」によると、資本金10億円以上の大企業製造業の役員報酬の平均は、約1500万円だった01年度からわずか4年で2倍の約3000万円まで跳ね上がった。従業員1人当たりの平均給与は約600万円からほとんど変わっていないにもかかわらずだ。
 富裕層の実態に詳しい甲南大学の森剛志准教授は「その後も役員報酬の上昇傾向は続き、現在は平均で5000万円を突破し、さらにその数を増やしている」と解説する。
 実際、たった1年で1億円以上の役員報酬を得ている役員だけで約360人もおり、数千万円クラスの報酬となれば、その比ではないくらい人数は膨れ上がる。


つまり、経団連の「賃上げを実施する余地はない」というのは、まったくでたらめで、高い役員報酬のおかげで、労働者に金が回らないというだけだ。
サラリーマンの平均年収の推移(下図)を見てもわかるように
平均年収推移

平成9年(1997) 467万円を頂点に、その後はどんどん下がり続け、リーマンショック後の平成21年(2009) 406万円。平成23年(2011) 409万円である。
つまり、日本の経済がここまで悪化した要因のひとつは、アメリカ同様に金持ち減税をやりすぎ、労働者に適切な賃金と手当てを与えなかったことが理由だ。どのような業種であれ、企業は社会の「公器」でなくてはならない。現代の強欲な富豪・経営者の罪は重い。

【Takky@UC】

参考文献
*4:教養として知っておきたい聖書の名言 中井俊巳

[編集部より]
皆様のご意見をお待ちしております。
当Nabe Party では mixi「鍋党コミュ」ないで税政に関するさまざまな議論を活発に行っております。その成果結果(OUTPUT)を当ブログに掲載しています。ぜひあなたもmixi「鍋党コミュ」に参加して、一緒に議論に参加してみませんか?小さな政府論はおかしいと思う人は、ぜひご参加ください。そして現在の「強者への逆再分配税制」を改めていきませんか?お待ちしております。
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■ Comment

死亡消費税について

howoohoohさん

死亡消費税というのは、ぼくははじめて聞きました。
いろいろなことを言う人がいるのですね。
普通に、相続税を強化すればそれですむ話だと、ぼくは思います。

howoohoohさんが言われるように
基礎控除の範囲内(1000万×法定相続人の数+5000万)
となってますから、この5000万円の部分を引き下げて、課税対象を増やせばいいだけです。

リンク先にも書いてありますが、
社会の貴重な資産が相続という形で一部の運のよい子孫に相続されるよりは、社会全体のために使われた方がよいという見方もあるだろう〉(産経新聞2008年5月3日付)
ということが大切で、ちゃんと次の世代には公平に分配されたほうが、社会のためです。世襲にろくなことがないのを見てもこれは明白です。

また、相続税に高い税率をかければ、「死んでも税金に持っていかれるだけだから、生きている間に使ってしまえ!」と言ってお金を高齢者がちゃんと使ってくれたほうが経済効果も上がります。
というわけで、howoohoohさんが期待した答えをぼくが書いてないかもしれませんが、ぼくの浅い知識ではこの程度しかお答えできません。よろしくお願いします。

Yahoo!知恵袋に投稿した質問の転載ですが

週刊ポスト2013年6月28日号記事における、印象操作あるいは論理のすり替えについて疑いたく、どなたか真偽を判定いただけますでしょうか。(以下記事を一部引用)
http://www.news-postseven.com/archives/20130617_194590.html

「死亡消費税 庶民苦しめる悪税で政府に並大抵でない税収増も」

増大する社会保障費の財源として、「高齢者医療費をカバーする目的での死亡消費税の導入」が提案された。
「死亡消費税」とは消費税のように国民全員に死ぬときに財産から一定の税率を“社会保障精算税”として納めさせるというもの。
これが実際に導入されるとこんなケースが必ず起きる。長年、介護してきた父が亡くなった。息子は介護のために会社を早期退職し、妻のパートで食べている。貯金も底を尽いた。遺産として同居していた家が残ったものの、評価額は3000万円。そこに「死亡消費税」の請求が届く。消費税並みの5%なら150万円、消費税引き上げ後の税率10%なら300万円になる。とても支払えず、家を手放すことになった──。

(引用終)

記事全体の論調としては、増税を批判する旨なのですが、まず現在の相続税における基礎控除を扱いに触れずに増税批判とすることは単純すぎると思います。この例だと基礎控除の範囲内(1000万×法定相続人の数+5000万)です。また、上記の例で問題となるのは、不動産を相続税の対象としていることで発生する問題ではあっても、同じ記事の別の段落で、「個人金融資産は1545兆円。そのうち1000兆円近くを高度成長期を支えた団塊の世代をはじめとする65歳以上の約3000万人が保有」「そこに死亡消費税をかけるとどうなるか。65歳以上の世代が平均寿命を迎える今後15年間で、税率5%なら50兆円、消費税引き上げ後の10%だと100兆円の課税になる。国民の財産が大きく減らされ、国には途方もない金額が入ってくる」とあります。

おかしな話で、いかなる形であれ税金は国民の所得や財産と相反する関係なのですから、それは国民の義務として甘受する性質があって、なおかつ何ら増税に頼らずして、1000兆とされる国と地方自治体の累積債務を解消することは困難と思います。この記事で紹介された死亡消費税について、仮に相続税の基礎控除の範囲を超えた金融資産部分について課税すれば、記事にあるような介護で経済的に困窮する世帯に負担を強いることにはならないと思います。

マスコミというのは、どうしても「読者の読みたい記事、読者にとって都合の良い記事」を書かないと、コンテンツとして買ってもらえないという部分はあるとはいえ、余りな支離滅裂な主張はどうでしょうか?

No title

 人類は、貨幣誕生以前の社会では、階級もなく、互いに助け合って生きてきたもので、階級制度や極端な貧富格差が出来てからの歴史って浅いんですよね。
 また日本は、今日は丁度東日本大震災のあった311ですが、地震や風水害で常に生活や地域が破綻するリスクにさらされている特殊な国柄です。巨大地震や洪水被害などは10年から20年に一度は起きていますし、個々の家庭で出来るだけ貯蓄してリスクに備えつつ、風水害が実際に起きた時には住民同士で助け合わないと生存が極めて困難になります。日本人は古来から風水害と地震の際には住民同士で助け合い、そして富裕な人が私財を投じて、住民を助けて生きてきたわけです。江戸時代には飢餓や火山が噴火した際、篤志家達が私財を投じて人々を救済した記録が沢山残ってます。
 だから日本人が貧富格差の大きな社会を嫌うのは本能的なもので、貧富格差を嫌う者は嫉妬に過ぎない等と中傷する一部の学者や知識人は、平和ボケしていて、日本人の感性を持ち合わせない特殊な人達なんです。
 経済面に関しても、非正規を増やす事で人件費を圧縮する影で、大企業の役員らごく一握りのエリート層の報酬を増大させてきた事実が、国民の多くの知るところとなれば、大企業の役員らは糾弾され、役員報酬を減額しない企業は商品不買運動の対象となり、減額するまで不買運動が続く事でしょう。非正規を増やして人件費を減らしつつ、大企業の役員らの報酬増を図る事に関しては、国民的コンセンサスなどどこにもないからです。
 問題は、どうやって【非正規を増やす事で人件費を圧縮する影で、大企業の役員らごく一握りのエリート層の報酬を増大させてきた事実】を、国民に広く浸透させていくかですね。
 マスコミはあてになりませんし、民主党はその【報酬を増大させてきたエリート大企業役員】側の政党なので、一切信用できません。
 つまり、非正規雇用者達の声をきちんと世の中に届ける仕組みを構築し、非正規雇用者達の声を代弁する政治勢力(社会民主主義政党)を成立させて、国会で存在感を持つ程度まで成長させる必要がある。
 そしてその仕組みを構築し、社会民主主義政党を成立させて、国会で存在感を持つ程度まで成長させるのは、全て国民が自発的に行動して築き上げなければならない。
 日本も変革の時を迎えているって事ですよね。
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