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続:無期雇用労働者を増やすはずの「改正労働契約法」がなぜ「5年有期雇い止め促進法」になってしまうのか

2013年5月13日公開の「改正労働契約法」をあつかったエントリでは、この法律改訂が起こした問題点を指摘しました。今回は、ぼく自身の経験を通して、どのようにこの問題に対処していったらよいのか考えてみます。前回のエントリを要約すると以下の点があります。

「改訂労働契約法」のポイント
・4月から、連続5年を越えて働いた有期雇用労働者が申請すれば、会社はその人を無期雇用にしなければならない「改正労働契約法」が施行された
・本来であれば、5年を超えれば無期雇用となり雇用が安定するはずが、雇い主(企業)側が通算雇用年数を原則5年以内として、実質5年を超えない雇止めがはじまっている。


ぼく自身も大手企業(工場)で、10年もの間、六ヶ月ごとの契約更新をする契約社員であり、今回この問題にまともに直面することとなってしまいました。5月の連休前に、自分の部署で働く契約社員が部屋に集められ、人事より説明会が行われました。その内容は以下のようなものでした。

人事の説明会
1. 4月1日で労働関連の法律で一部改正があり、それにともなって契約社員の就業規則の改定も行わた。
2. 就業規則改定において、契約社員の契約上限が5年というものが明記された。
3. この5年という期間については、2013年4月1日に法律の改正が行われて、就業規則も4月1日から改定となったので、4月1日以降、最初に皆さんが更新をするときから5年間というのがその上限期間となる。


というものでした。
今まで契約書には契約更新の上限などという言うものはなかったのですが、2013年4月1日以降に契約更新した場合は、5年後の2018年までが雇用期間の上限という契約内容になります。もちろんこれは、今回の「改訂労働法」によって5年を過ぎれば無期雇用を申し込んだ者は、無期雇用にしなくてはならないことを防止する会社側の悪質な雇止め措置と言えます。

会社には労働組合はあるものの、正社員しか入れず、ぼくのような契約社員は組合に入ることは出来ません。そのため、ぼく自身は会社に知られないように、一人でも入れる産業別労働組合(ユニオン)で活動しており、すぐにユニオンにこの件について相談をしました。まず、改訂された時給契約社員就業規則にどのように書いてあるか調べてみたところ、

付則第1条 雇用契約の期間
・次条の定めにより、契約更新をすると決定した場合であっても、通算契約期間は最初の契約開始日から5年を超えないもとのとする。


という文言が新たに追記されていました。そして6月に入り新しい契約書を渡され、そこには

・契約の更新
通算契約期間は本契約開始日(2013年7月1日)から5年を超えないものとする。


という文言が追記されていました。
そこでユニオンで対策として、以下のブログを参考に対応することにしました。

“有期労働契約の「更新上限の合意」への対応策”

このブログにあるように準備行動として

先ず、有期社員は、使用者に、もしこの合意をしなければどうなるかを質問する。
この場合、使用者は、「合意しなければ、すぐ3月末で雇止めをする」と回答するでしょうから、この回答をしっかりメモや録音しておくことが重要です。


なぜこのようなことを使用者(企業側)に質問するかというと、その下に説明があります。

・就業規則の変更への対応
なお、有期社員向けの就業規則に、今まで更新の上限がないにもかかわらず、有期契約の更新の上限が新たに定められた場合には、労働条件の不利益変更(更新の上限のない労働条件から、更新上限のある労働条件への不利益変更)ですから、労働契約法10条違反です。従前からの有期社員(有期契約労働者)を法的に拘束することはできません。


これは違法またはかなりなグレーゾーンであり、そのことを使用者(企業側)が理解していなければ、当然「合意しなければ雇止めするぞ!」という回答をしてくるでしょう。それを引き出すのが狙いです。
そのあと、とりあえずは契約更新して、次の契約期間に入ってから、このブログの通りに

・今回の更新上限の合意は、労契法18条の潜脱(せんだつ)するもので、改正労契法の趣旨に反して違法無効であり、撤回を求める。


として抗議しようと作戦を練りました。
そこでぼくは、人事に以下のような内容のメールを送りました。

改訂された「時給契約社員就業規則」に基づき、新しい契約書にはこのような条項がはいっています。

・通算契約期間は本契約開始日(2013年7月1日)から5年を超えないものとする。

もし、私がこの改定された一項について同意しない場合は、どのようになるのでしょうか?
お忙しいところ恐れ入りますが、来週月曜日 17:30までに、メールでご回答をお願いいたします。


メールを送ったのは週末の金曜日であり、翌週の月曜日の17:30までに返事をするようにと期限を切っておきました。
翌週の月曜日、ぼくは人事からの返事を待ちましたが、万が一メールでの返信ではなく、人事から直接呼び出された場合に備えて、ボイスレコーダを携帯していました。17時を回っても返事がなく、今日は返事がないとあきらめかけていたところに、人事から以下の返事がきました。

人事からの返信(要約)
1. 今年の4月以降の契約書は、規定の改定に基づきその内容を追加している
2. 改定内容について同意できない場合でも、現時点においては契約期間の上限もまだ先になるため、契約書にその文言を記載せずに契約する事は可能である
3. ただし、会社としては先日説明したとおり、今後は規定に則り契約管理をすることになるため、弊社の事情を察しの上、改定内容についてご理解いただく事をお願いする


2.については、人事はあっさりと、今回の契約書の変更内容を取り下げてしまいました。これには、ぼくは拍子抜けしてしまいました。ただし、契約書は白紙撤回するが、3.の改訂された就業規則(規定)にしたがって契約管理をするというふうに言ってきていますから、会社は5年後に改訂された就業規則をたてに更新拒絶をしてくる可能性もあります。

とりあえず、

・通算契約期間は本契約開始日(2013年7月1日)から5年を超えないものとする

この条項の文言(不更新条項といいます)を記載しない契約書を新たに作ってほしいと人事にメールで返信しておきました。
翌日の夕方、人事部から新しい契約書が自分の部長宛に送られてきて、ぼくは不更新条項のない契約書を手にすることが出来ました。

今回、会社は「1.就業規則」「2.変更内容の周知および同意」「3.契約書」の3段構えで5年雇止めを行おうとしてきました。

1. 時給契約社員就業規則を改訂して、雇用契約期間を「5年を超えない」ものとする。
2. 人事が契約社員全員に説明を行い、改訂内容を周知して、改訂内容に契約社員が同意したということにする。
3. 個別の契約書に「通算契約期間は本契約開始日(2013年*月1日)から5年を超えないものとする。」という文言を新たに入れて、契約書にサインさせる。


ぼくは2.については「同意できない」とつたえて、その結果 3. の契約書の内容を元に戻すことが出来ました。しかし、1.の就業規則に関しては、元に戻させるというところにいたっていません。今後はこれをどのように元に戻させるかが課題となります。

実は自分の会社で働く同じ契約社員の友達にも何人か声をかけて、一緒に会社と闘おうと呼びかけたのですが、ほとんどの人が「会社と戦うのではなく転職したい」ということでした。
ぼくが「たとえ転職しても、また派遣や契約社員になったのでは、同じ道をぐるぐる回るだけでおなじだから、ここで一緒に頑張ろう!」と説得したのですが、もはやこのように5年で雇止めを行おうとする会社では、働く意欲すらないという感じでした。人事が5年で契約を満了すると説明したことで、多くの契約社員は、長くてあと5年しかいられない会社で一生懸命仕事などする気持ちもなく、労働者のモチベーションを下げただけです。このようなことは、工場の生産性や歩留まりに直接響いてしまうのではないかと心配です。また、契約社員の中には、近所の養護学校を卒業してきた知的障害がある人たちもいます。このような人たちが5年後に会社を追い出されて、路頭に迷うのではないかと思うと心配です。養護学校の先生たちがこの事実を知ったらどのように思うでしょうか。
企業は単に商品を消費者に提供するというだけでなく、地域の雇用という社会的責任もあることも自覚してもらわなくてはいけません。

このように労働者の労働意欲が下がった状況では、日本の社会が活力を失うのは当然です。先日の選挙前までは、アベノミクスであたかも景気が良くなったような演出をテレビなどではしていましたが、実際には2013年には非正規比率が男20.9%、女55.4%と男女とも過去最高を更新している状況で、働く人たちは暮らしや雇用が良くなったという実感はないでしょう。先日の選挙でブラック企業がキーワードになったのもこのためです。日本の社会が本来の力を取り戻すためには、単に株価の上下に一喜一憂することではなく、労働者の安定した雇用と収入によって実現されるのではないでしょうか。長期的な安定が労働者のスキルアップにもつながります。今回の「改訂労働契約法」を本当の意味で労働者の安定した雇用と収入に結びつける必要があります。

・労働組合連絡先
電機・情報ユニオン
首都圏青年ユニオン
一人からでも労働組合に入れます。

【Takky@UC】

[編集部より]
皆様のご意見をお待ちしております。
当Nabe Party では mixi「鍋党コミュ」ないで税政に関するさまざまな議論を活発に行っております。その成果結果(OUTPUT)を当ブログに掲載しています。ぜひあなたもmixi「鍋党コミュ」に参加して、一緒に議論に参加してみませんか?小さな政府論はおかしいと思う人は、ぜひご参加ください。そして現在の「強者への逆再分配税制」を改めていきませんか?お待ちしております。
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テーマ : 労働問題
ジャンル : 政治・経済

■ Comment

どっちにしろ、契約終了

このボクは、五年期限の契約をしなかったとしても、有期契約が終わった時点で、契約更新されないだけだろう。五年待つまでもなく、一年で解雇です。解雇理由は、特に示されもしないでしょう。

非正規雇用については

それを資本の立場からではなく、労働者の立場から考察すべきではないでしょうか?
つまり、資本にとってのメリット、デメリットの有無からではなく、労働する諸個人の人格陶冶や全面発達といった観点からそれにまつわる諸論点を考察すべきだと。
いわゆる「保障説」的な非正規待遇論は、しょせんは資本の利益の枠内の、賃労働永劫論的なものでしかないように感じます。つまり歴史性の視野が無い。

非正規雇用の場合は正規雇用より高い賃金の保障こそ

私は、今こそ【非正規雇用の場合は正規雇用より高い賃金の保障こそ】というスローガンを掲げても良い時期だと思います。

理由は言う迄も無く、非正規雇用は、正規雇用に比べて、景気変動による雇止め等のリスクを背負わされた雇用形態であり、企業側にも「切り易い」というメリットを存分に享受している雇用形態であるからであり、被雇用側と雇用側の、デメリットとメリットを勘案するなら、非正規雇用の時間当たり賃金は、正規雇用の2倍でも良いぐらいでしょう。

そうすれば、企業側も、安易に非正規雇用を選ばず、正規雇用を増やすという、経済的なインセンティブ(経済学用語:誘因の事)にもなります。

これは(私の)極論に聞こえるかもしれませんが、ここまでしないと、資本主義という各経済主体(企業や個人)の、利潤最大化を原理とする社会では、根本的な意味で、非正規雇用形態による格差を根絶する事は出来ないでしょう。

蛇足として、何故?、資本主義を根本的に超克する「共産」という名前を冠した日本共産党などが、こうした提案をしないのか?、私も一人の平・日本共産党員でありながら、不思議でなりません。(苦笑)
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