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国際競争力のペテンと雇用破壊(前編)

今回は国際競争力の名の下に雇用破壊を続ける安倍内閣について、自分がグローバル企業の製造現場を10年見てきた立場から考えてみたい。

1.リストラの実態
先日半導体工場でリストラにあっているという人とお会いして、リストラについて話を聞いてきた。
それによると「今の職場にあなたの活躍する場所はない」などと上司や人事から面接で言われ、派遣会社を紹介されるという。すると派遣会社の担当者は「まだまだあなたの活躍する場所はありますよ」などと巧みに誘い、派遣先を紹介するそうだ。
派遣会社といえばパソナが有名で、その取締役会長である竹中平蔵について最近以下の記事が出ている。

・竹中平蔵が画策 「解雇特区」構想でサラリーマンは奴隷化必至


(中略)
「産業競争力会議」は、解雇特区をつくれば企業が従業員を雇いやすくなり、雇用が生まれるなどと喧伝しているが、特区にそうそうたる「ブラック企業」が集結し、いずれ日本全体がブラック企業化するのは目にみえている。

「特区構想は、対象を大都市に事務所を構えるベンチャー企業に限定するとしています。しかし、拡大されるのは確実です。派遣社員だって、最初は限定されていた。それに対象は創業5年以内の企業としているが、古い企業が別会社をつくるなど“抜け道”はいくらでも考えられる。もともと安倍首相は『世界で一番ビジネスしやすい国にする』と宣言し、経済界の要望を無批判に受け入れてきた。恐らく特区を突破口にして、社員を簡単にクビにできる国にするつもりでしょう」(筑波大名誉教授・小林弥六氏=経済学)

<どんなに企業儲けさせても景気は上向かない>

「解雇特区構想」を強力にプッシュしているのは、「産業競争力会議」のメンバーである竹中平蔵だ。

 小泉政権で実現できなかった日本改造を、安倍政権で推し進めるつもりでいる。しかし「市場原理主義」の竹中平蔵に勝手をやらせたら、日本はどこまでも格差が広がってしまう。

「強いものを強くする、企業の利益を最優先する、という市場原理主義では景気は回復しないことは、小泉政治の失敗が証明しています。GDPの6割は個人消費なのだから、どんなに企業を儲けさせても、労働者の賃金が増えなければ景気は上向かない。安倍首相は、サラリーマンの懐が温かくなるようにするべきです。なのに、消費税増税で国民から8兆円を吸い上げ、法人税を減税しているのだから話にならない。そのうえ、解雇特区を導入しようなんてどうかしています。なぜ、ブラック企業がやるようなことを政府がやるのか」(小林弥六氏)

「解雇特区」の導入など絶対に許してはいけない。こうなったら、安倍首相と竹中平蔵をまとめて叩き潰すしかないのではないか。


つまり、バンバン正社員を減らして、派遣会社が儲かり企業がまともに給料を払わないブラック社会を竹中平蔵は目指しているようだ。

2.安倍晋三の「雇用が60万人増えた」のペテン
こうした激しいリストラはいたるところで行われていると思ってよい。
電機・情報ユニオンによれば20万人近い人たちが人員削減の対象となっていると伝えている。

・リストラ情報

電機労働者懇談会(電機懇)は、2013年10月9日現在の調査を行ない、124企業・職場の社員数148万6417人のうち、公表されただけで19万1891人が人員削減の対象となっていることを明かになりました。


しかし、こうした事実があるにもかかわらず、安倍総理は60万人の雇用が増えたと言ったそうだが、その内訳は以下のようである。

・首相「雇用60万人増」というが増えたのは非正規社員
志位氏 正社員が当たり前の社会を

安倍晋三首相は雇用問題にふれ、「5月、前年同月比60万人の雇用が増えています」と胸を張りました。
 総務省「労働力調査」によると、確かに昨年5月から今年5月にかけて、雇用者は62万人増加しています。
 しかし、その内実は非正規雇用労働者の増加によるものです。
 正規労働者をみると、昨年4~6月期平均の3370万人から、今年5月には3323万人と47万人減少。一方、パート・アルバイト、派遣などの非正規雇用労働者は、同期で1775万人から1891万人へと116万人も激増しています。


つまり、雇用が増えたといっても、正社員が上記のようにリストラや企業倒産などにあい、次の正社員での仕事が見つからないために、派遣や契約社員などの非正規雇用に転換させられた労働者が多いのではないだろうか。
総務省統計局の最新の発表によれば

・労 働 力 調 査 (詳細集計)
平成25年(2013年)4~6月期平均(速報)

1 雇用形態
 ・正規の職員・従業員は3317万人と,前年同期に比べ53万人の減少。2期連続の減少。非正規の職員・従業員は1881万人と,前年同期に比べ106万人の増加
 ・役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は36.2%と,前年同期に比べ1.7ポイントの上昇。2期連続の上昇

雇用形態別に見た役員を除く雇用者の推移
  雇用形態別に見た役員を除く雇用者の推移

2 現職の雇用形態(非正規の職員・従業員)についた主な理由
 ・男性の非正規の職員・従業員(603万人)のうち現職の雇用形態についた主な理由を「正規の職員・従業員の仕事がないから」とした者が168万人で30.7%
 ・女性の非正規の職員・従業員(1278万人)のうち現職の雇用形態についた主な理由を「家計の補助・学費等を得たいから」とした者が331万人で27.5%

現職の雇用形態についた主な理由別非正規の職員・従業員の内訳
現職の雇用形態についた主な理由別非正規の職員・従業員の内訳 (2013年4~6月期平均)


となっている。先ほどの半導体工場のリストラにあっている彼の話だと、関東の工場に勤めていて退職した場合、自分の実家のある地方に戻ろうとしても正社員の仕事はなく、パソナなどの大手派遣会社の紹介で派遣になるしかないと言っていた。しかし、彼は高校生と大学生の子供がいるから、絶対に派遣にはなりたくないからと、会社のリストラに対して抵抗を続けていいる。同じようにリストラに屈せず会社に残った人たちは、40代の子育て中の人や家のローンを抱えている人たちだそうだ。それに年齢も40を過ぎればいまと同じ収入のある転職先を見つけることは難しい。これは現代の「農奴制」とも言うべきものではないだろうか。

3.一度非正規雇用になれば抜け出せない
このようにリストラや病気、家庭の事情など何らかの形で正社員から非正規雇用になる人は多いだろう。ぼくも病気が元で非正規雇用になったひとりだ。そして一度でも非正規雇用になれば、二度と正社員に戻れなれないように安倍内閣は法の整備をちゃくちゃくと進めている。

・正規雇用10年まで更新へ

政府は、雇用分野の規制緩和の一環として、非正規労働者が同じ企業で5年を超えて働いた場合、希望すれば期限のない雇用契約に切り替えることを企業に義務づけた労働契約法について、非正規で雇用できる期間を10年まで更新できるよう改正を目指す方針を固めました。
 政府は、大胆な規制緩和を行う「国家戦略特区」の創設にあたって、雇用分野も対象にすることを検討してきましたが、全国一律の規制を求める厚生労働省が難色を示していたことから、安倍総理大臣や新藤総務大臣ら関係閣僚が、16日会談し、対応を協議しました。
 その結果、企業の競争力を強化するためには、雇用分野の規制の緩和を進める必要があるとして、当初の方針を転換して、国家戦略特区ではなく、全国一律に規制緩和を進める方針を確認しました。
 そして、非正規労働者が同じ企業で5年を超えて働いた場合、希望すれば期限のない雇用契約に切り替えることを企業に義務づけた労働契約法について、非正規で雇用できる期間を10年まで更新できるよう改正を目指す方針を固めました。
 また、労使間の紛争を防ぐため、政府が過去の労働裁判の判例を分析し、解雇が認められるケースなどの目安をガイドラインとして、企業に示すとともに、企業向けの相談窓口を設ける方針を確認しました。


つまり、管理職以外はみんな非正規のブラック企業だらけになるとかそういう社会でも現政府は目指しているようだ。
最後にさらりと「解雇が認められるケースなどの目安をガイドラインとして、企業に示す」と書いてあるが、これはつまり企業に対して「こういう場合は解雇しても法律に抵触しませんよ」と解雇事例集(首切り事例集?)を政府が作ってあげるから安心してくださいというひどいものであるから注意したほうがいい。
このような影響は新卒の大学生にも出ていて、人生これからという若者が命を絶つのは耐え難いことだと思う。詳しくは以下のリンクを参照してほしい。

・就活自殺は5年前の3.3倍増、就職失敗による大学生の自殺率は日本平均の2.6倍にものぼる

以前も当ブログに書いたが、経済の再生は中流層復活がなければならない。ここでまたくどくど説明するのではなく、以前のブログを再び読んでいただければ良いと思う。

・今必要なのは中流層の復活だ!

ニューヨークタイムズの話題論文を全文翻訳ーーロバート・ライシュ「没落した中流階級の再生なしにアメリカ経済は復活しない」
少数の金持ちに依存する経済は弱い



4.国際競争がペテンな訳
そもそも、国際競争で日本が勝ち残るために規制緩和をするという話がでてきて、そのためには1.で述べたような「産業競争力会議」という名の「解雇特区」を作ろうという話になる。
グローバル企業における国際競争とはそもそもどういう意味なのだろうか?グローバル企業とはいうまでもなく多国籍企業といういくつもの国で事業を行う企業のことである。
自分の勤めている工場は全世界で7つもの工場があり、主にアメリカ、日本、中国、韓国、インド、ヨーロッパ数カ国である。この中で日本の工場の位置づけは、流れを追って説明すると、

1.新製品開発によってプロトタイプ(試作品)を技術部が作る
2.量産できるように生産ラインを作る
3. ある程度製造ノウハウがたまると中国・インド・韓国に生産ラインを移転する。


ぼくは主に中国・インドへの生産ライン移転などの仕事をやっている。
日本工場は絶えず新製品開発をしていかなくてはならない立場にある。それに2~3年かけてやっと製造ノウハウがたまって、歩留まりも改善し、いざこれから儲けが出るぞというときになって、中国やインドの技術者が来て製品を移転してしまう。
さらに言うと、日本で開発したものを中国・インドで生産すれば、当然最初は不具合がたくさん起こるしそうした面倒見も日本が行っている。インターネットが高度に発達したおかげで、自分のPCから社内LAN (VPN) を使って中国やインドの工場生産ラインのコンピュータのプログラムを手直ししたり、製品データを引っ張ってきて歩留まりを解析することも可能だ。だから、わざわざ日本人技術者が現地に行くことは、よほどのことがない限りないし、中国・インドの現地の技術者も最小限の人数にすることができる。
そして厄介なのが、中国・インドでの生産が遅れたり歩留まりが悪ければ「日本工場の対応が悪い」というグローバルの評価がついてしまう。各国の工場の人件費はドルで換算しているから、多少円安になったところで「何で日本人の給料はそんなに高いのだ!」とたたかれまくっている。おかげで日本人の技術者は一人でものすごい製品数を担当させられて、どこのグローバル企業の技術者も青息吐息という感じではないだろうか。無情にも新製品開発のサイクルが止まったら、日本工場はお払い箱である。
ついでに言うと、基幹となる特許はアメリカ本社のものをライセンスしてもらっているから、日本で作ってもライセンス料はアメリカ本社に払わなくてはならない。はっきり言ってグローバル企業の中で日本工場は踏んだりけったりという状況がわかってもらえるだろうか?

今説明したように、あたかも日本は全世界の国々と国際競争を争っているかのような政府の発言は、グローバル企業にはあてはまらない。せっかく日本で血道をあげて開発・量産化したところでそれは中国・インド・韓国に持っていかれるのだから何を競争しているのかわからない。これがぼくが「国際競争なんてペテンだ」という理由だ。もちろんこれは、ぼくのグローバル企業で仕事をする中で得た経験から話をしているから異論もあるとは思うが、少なくともこういう一例があることは確かだ。

今週は長くなったので、ここまでとさせていただきます。次週は
5. 法人税が海外移転の主な理由ではない
6. 増え続ける内部留保
7. まとめ

について、書く予定です。

【Takky@UC】

[編集部より]
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テーマ : 労働問題
ジャンル : 政治・経済

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